ベルギー1部リーグ・シントトロイデンVVの快進撃(10月28日現在リーグ戦2位)を支えているのは、チーム全員のハードワークのたまものだ、と前回のコラムで書いた。

 そしてリーグ全体に言えるのは、この国のリーグはフィジカルをベースとした、攻守にアグレッシブなサッカーを好む選手や指導者が集まっているのだな、と感じている。

 ポゼッションについて。まず感じたのは、チームではポゼッションのトレーニングもするし、概念も知っているし、バルセロナがすごかったという認識も持っているが、実際のリーグ戦では誰もこだわりがない。ポゼッション率の高さも議論にならない。リーグで上位にいるチームも別にポゼッションサッカーを掲げているという話も全く聞かない。そもそもポゼッションサッカーなんていう言葉は誰も使わない。

 なぜか? ポゼッションというのはあくまでもゴールへ向かう手段、ツールであり、そこにこだわることには、全く興味がないのだ。スタイルとして目指す監督もいると思うが、こちらで指導者たちとの議論の多くは、どういう崩しでゴールをするか、何回決定的なチャンスを作れるか、シュートの正確性をどうやって上げるか、などだ。そこに「効率良く」という言葉が頻繁に使われる。日本だと、効率よくプレーする、というと少しサボるイメージもあり、あまり使わないが、こちらでは最高の褒め言葉だ。決定力の向上にも必要な言葉だと思う。


欧州チャンピオンズリーグのU-19アンドルレヒト対パリサンジェルマン戦
欧州チャンピオンズリーグのU-19アンドルレヒト対パリサンジェルマン戦

■ゴールへの意識高い欧州

 欧州チャンピオンズリーグのアンデルレヒト対パリサンジェルマン(PSG)の試合をスタジアムで見た。試合はPSGの勝利だったが、この日はもう一つの試合が興味深かった。U-19ユース・チャンピオンズリーグだ。同日の早い時間に別のミニスタジアムで行われた、同カードのU-19の試合は本当に面白かった。ほとんどが18歳以下だが、身体はもう大人と一緒。デュエルやインテンシティは、トップチームをしのぐかもしれない。プレーのクオリティーはまだまだだが、ボールを奪えば、良くつなぎ良く走り、ゴールへ向かう。お互いに相手のボールを奪いに行き、インテンシティが高いサッカーの中で、技術を駆使することを目指す。PSGは、試合前のアップを16人全員でポゼッションのトレーニングをしていたが、やはりみんなうまい。つなごうと思えばしっかりつなぐ。でも試合になれば、何本つなぐではなく、ゴールへ向かうパスワークになる。

 ベルギーの話に戻ろう。つなぐけれどなかなか前に運べない、ペナルティーエリアに侵入できない、などの時は、ポゼッション率が高くても、攻めあぐねている、という評価になる。サポーターからも攻めろ、という声が飛ぶ。サイドは勝負をしろ、クロスに飛び込む人数を増やせ、エリア内で受けたらまずシュートを考えろ。一般的なことだが、これを徹底して意識しているので、攻撃の選手たちに特色が出る。個性的なストライカーは、味方につなぐことより、ゴールにパスする方を常に考えている。サイドアタッカーは足元で受けるだけではなく、常にDFの背後を取ることを考えている。日本にサイドを絶対に突破できるドリブラーや、エリア内で勝負強さを発揮するセンターフォワードが出てこないという問題は、まだまだゴールへの意識、得点からの逆算の意識、が十分ではないからだと思う。


チャンピオンズリーグ「パリ・サンジェルマン 対 バイエルン」の試合データを元に日本代表サッカーの強化を訴えるハリルホジッチ監督(2017年9月28日)
チャンピオンズリーグ「パリ・サンジェルマン 対 バイエルン」の試合データを元に日本代表サッカーの強化を訴えるハリルホジッチ監督(2017年9月28日)

■「デュエル」が当たり前

 ヴァイッド(ハリルホジッチ)が、前回の会見でポゼッションに関する持論を展開した。彼はポゼッションを否定している訳ではない。つないだらダメだなんて全く言っていないのに、日本国内ではポゼッションにこだわったら勝利することはない、なんておかしな解釈もされている。あくまでもツールなのである。そのツールを使うことで日本が目指すサッカーができ、相手によってそれを使う方が勝利の確率が高くなるなら(これが大事だ)、使えば良い。でも目的はそこではないですよ、ということだけだ。彼ももっとうまく伝えられれば良かったのにね(笑)。

 子供の試合を見ても、デュエルは当たり前だ。観戦しているお母さんからも「そこでデュエルに負けちゃダメでしょ」の声が飛ぶ。こういう意識がその国のサッカーレベルを表すバロメーターだと感じる。言葉はなんでも良いが、デュエルや戦うこと、走り負けないこと、ゴールに向かうこと、などのサッカーという競技の本質へのこだわりがこちらにはあり、日本には足りない部分だと思う。だからポゼッションかカウンターかなんていう不要な議論がまだあるのだ。ザッケローニが言ってた「インテンシティ」やヴァイッドの口癖の「デュエル」なんかは、こっちではやはり当たり前の話。その上で何が必要なのか、戦いの中でどのツールをうまく、効率よく使い、勝利を目指すのか、が問われている。

 U-17W杯を見ても、選手のアスリート化、パワフル化はさらに低年齢化しているし、戦えるボディを鍛えることはマストだと、ベルギーに来てさらに感じている。フィジカルもボールテクニックも両方強化することがレベルアップには欠かせないという認識だ。

 サッカーのルールは1つだが、世界中で戦い方や練習方法、戦術や戦略は無数に存在する。何が正しいか、という正解を探すのではなく、どれが自分たちに合っているか、どの方法で勝つ確率を上げられるのかの最適解を追求するのが必要だ。そのためには、本質を見誤らないこと、これを元に戦うというコンセプトをきちんと作ること、試合の状況に役立つ練習をすること、復習と予習を高いレベルで継続すること。

 こうやって書くと大切なことは、サッカーでなくても、人生と同じだね。

【霜田正浩】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボールの真実」)