Jユース(Jクラブの下部組織)の指導者2人に育成について尋ねると「軸」というキーワードに出合った。

 1人はガンバ大阪の上野山信行取締役(60)。宮本恒靖や宇佐美貴史らを輩出してきた「育成のガンバ」で長年、育成世代に携わっている。「日本のサッカーには軸がない。特に日本人の指導者には『自分のサッカー』という軸を持っている人が少ない。A代表の監督が持っている軸をU-19やU-17、もっと下の世代の監督まで伝わっているか、といえばそうではない」。その言葉は熱を帯びていた。

 例えば、スペインなら技術を重んじるパスサッカーが思い浮かぶ。監督によって多少の戦術変更はあっても、スタイルの軸は年代別代表に至るまで「スペイン代表」の看板を背負う限りブレない。A代表から年代別代表まで監督が代わるたびにサッカーも変わる日本サッカーは「安定していない」と言い切った。

 これまで「日本代表には高体連出身が多いか、クラブユース出身が多いか」と議論されてきた。だが、上野山氏は「そもそも世界ではそういう視点で見ていない」という。世界は軸を持って選手を育成している。日本は自分たちの本質を見極めるべきとした上で、提言した。「日本はパスサッカーを目指せばいいのでは。パワープレーで相手を背負っても勝てない。『育成世代だから国際大会は経験。負けてもいい』と言われることがあるが、絶対に負けてはいけない。トップ(A代表)を成長させるためには下の世代から育成をしなければいけない」。

 もう1人、柏レイソルのトップチームコーチ兼アカデミーヘッドオブコーチの岩瀬健氏(42)は「育成の軸」を追い求めている。柏は04年頃から、トップ強化のため下部組織での“自家栽培”に本腰を入れた。小学生からトップと同じシステムで戦うなど「攻撃的に主導権を握る」サッカーを共通させた。酒井宏樹や中村航輔らが後に日本代表になり、15年にはユースから伊藤達哉がハンブルガーSVに加入。国際的にも評価を得た。16年8月の川崎F戦ではピッチ上の11人中10人を下部組織が占めた。今季は下部組織出身が43・3%と、取り組みは実を結んできた。

 育成は次の段階に進んでいる。「これまではうまさ、賢さに特化していた部分があったが、新たに16年から体の大きさや足の速さなど、その子の個性がトップで生きる育成も考えるようになった。速くて強い選手にうまさ、賢さを伝えられるのが理想です」。

 ただ、才能ある選手を集める難しさにも直面している。「野球では大谷翔平君をはじめ、体の大きい子がたくさんいる。そういう子にうまさ、賢さがあれば一番いい。他のスポーツにいっちゃってるのか、見つけられていないのか…。もともとJリーグができたのは、日本代表を強くするため。だから、代表が強ければ子どもたちにもサッカーを1番に選んでもらえると思う。今年のW杯でも、ぜひいい結果を残して、子どもたちに夢を与えてほしいですね」。【小杉舞、松尾幸之介】(つづく)