連載「フットボールの真実」では「メンバー選考」に迫る。短期間でワールドカップ最終登録メンバー23人を選んだ西野朗監督(63)は何を考え、どう決めたのか。2回に分けて、その真実を追う。

 最後は久保のくの字も出なかった。一時は追加招集をにおわせたようにも聞こえたベルギーのストライカーには、合宿中にけが人が出ても声さえかからなかった。最終リストの23人には当然、名前がなく、落選もさほど話題にならなかった。

 ハリルホジッチ氏が率いた前体制では主力。本田を押しのけ、右サイドで相手DFラインの裏を突き続け、初のW杯に手をかけているようにみえた。

 しかし、監督交代で立場が一変した。図らずも、西野監督の主力候補に久保が含まれていないことは、ガーナ戦に向けた合宿初日だった5月21日にいきなり露見してしまう。

 未明にベルギー1部リーグのプレーオフ(PO)を戦い、自らの得点で勝ち、全日程を終了させた久保について聞かれると「まだPOは続きますので、その行方を見守りたい」と言ってしまった。

 うっかりでも、煙幕でもなく、本当に知らなかった。PO終了を指摘されると、きまじめで正直な人柄だけに「失礼しました」と謝ったが、時すでに遅し。追跡するほど興味を示していなかったという裏付けを取らせてしまった。

 伏線はあった。ゴールデンウイークに欧州視察で4カ国を巡ったが、ベルギーには立ち寄らなかった。西野監督はリーグの格をことさら重視する。ここ数年、数々の若手を輩出するベルギーは格下と線引きされたようだ。前体制で主力を脅かす存在だった森岡は、予備登録35人にさえ入らなかった。

 同じような理由で外れたと思われる選手もいる。ガーナ戦に向けたメンバー発表会見で、選外とした理由を思わず「ポリバレント(複数ポジションをこなす多様性)」と口走り、これが理由として独り歩きしてしまった新鋭・中島はポルトガルリーグに在籍。さらに本大会で大化けの可能性があった堂安も同様に、オランダリーグの在籍だった。

 そもそも、和を重んじる西野監督は、はなから選手を競わせるような選考はしたくはなかった。晴れの会見に同席した日本協会の田嶋会長は5月16日、筑波大での講演後に取材対応し「西野さんは最初から23人を選びたかったみたいだ」と証言している。

 しかし、けがを抱えた香川ら状態を確認したい選手が増え、踏ん切りがつかない。前任者のプランニングした「外れるのはカズ、三浦カズ」以来の2段階選考案を受け入れざるを得なかった。

 候補が多い中で、前提としてまずはリーグの格でのプレ選考。そして最後の最後、ガーナ戦後に3人を外した。

 偶然なのか、必然なのか-。外れたのは残った26人のうち、年齢が若い順に3人。いずれも実績に乏しく、外れたことが、世間を揺るがすような騒ぎにまではならない面々だ。結果、ネット上では、ずっとやゆされた「忖度ジャパン」が完成したと、痛烈にこき下ろされた。【八反誠】

(続く)