磐田がJ2に降格して、2年目のシーズンがスタートした。降格した13年から磐田を担当しているが、今季は名門再生へ大きな1歩を踏み出す予感がしている。

 近年の磐田は、度重なる指揮官交代でチーム状況が悪くなったときに、立ち戻る「柱」がなくなってしまった。特に、12~13年初めの監督が定着させた極端に「つなぐ意識」が、結果的にゴールに向かう推進力を奪った。当時の練習を振り返ると、ゴール前の精度を磨く練習がほとんどなく、つないだパスの数を重視していた。サッカーは「パスゲーム」ではなく「ゴールゲーム」だ。公式戦で勝利に見放されると、次第にバックパスや最終ライン近辺でボールを回すことが多くなり、シュート数も激減。サポーターは「カニカニ・バックサッカー」(カニのような横パスが続き、最後は後ろに下げる)と嘆いた。

 指揮官が交代してもその悪癖は絶ちきれず、クラブはJ1昇格が苦しくなった昨年9月末、黄金期を築いた名波浩監督(42)に、ようやく中長期ビジョンでの再建を託した。失われた「柱」を築くべく、名波監督は、選手に分かりやすい言葉で「4カ条」((1)シュートを打つ(2)攻守の切り替え(3)セカンドボールの予測(4)コミュニケーション)を徹底的に意識付けした。J1でも通用する攻守で仕掛ける「アクションサッカー」を掲げ、今季はその根幹を成す「90分走り抜く体力づくり」からスタートさせた。

 名波監督は指揮官として「言い続けること」をモットーにしている。その根底にあるのが、解説者時代に見た当時広島のペトロビッチ監督(現浦和)の姿だった。大差で負けている状況下でも、ペトロビッチ監督はテクニカルエリアに立ち「3メートル前に行け」など細かい指示を出し続けていた。「下手くそだから、どんな状況でも繰り返し言い続けなくてはダメなんだ」との言葉に共感を覚えた。「自分も現役時代、そういうスタイルでやってきたし、指導者になったら言い続けるだろうな」と感じたという。磐田の指揮官になった今、しっかりそれを実行に移している。

 就任当初から、4カ条はもちろん「(攻撃で)前の選択肢を探す」「守備でのボールアプローチ」など攻守の約束事を口酸っぱく言い続け、今季はチームの基礎戦術の浸透が深まった。開幕前は、各選手が「みんなが走れているし、ボールを奪いにいくところ、いかないところの約束事もはっきりしている」と手応えを口にしていた。

 その手応えはリーグ戦の結果にも直結し、チームとして11年ぶりに開幕2連勝を飾った。3節は敗れたが、攻撃では前への意識が色濃く表れ3試合の平均シュート数は13本。守備でもプレスバック、ボールアプローチと指揮官が言い続けたことを選手がピッチで実践している。改善の伸びしろはまだあるが、名波監督も「柱に枝葉がついてきた」とチームの進化を口にする。

 ようやく希望の光が差してきた。練習場が隣接するラグビーのヤマハ発動機ジュビロは、清宮克幸監督が4年の歳月をかけ、チームを日本一に導いた。同じ「ジュビロ」の名を背負うサッカーも、名波監督の下で常勝軍団への道を歩む「元年」になると確信している。【岩田千代巳】


 ◆岩田千代巳(いわた・ちよみ)1972年(昭47)3月22日、名古屋市生まれ。菊里高-お茶の水女子大卒。95年入社。主に文化社会部で芸能を担当。11年11月から静岡支局勤務。一般スポーツを担当後、13年1月から磐田を担当。