思わず「すごい」と声が漏れた。G大阪は16日のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)準々決勝第2戦ホーム全北(韓国)戦を3-2で勝利し、7年ぶりのアジア4強を決めた。このままなら敗退が決まってしまう2-2の後半ロスタイム、DF米倉恒貴(27)が勝ち越し弾を放った。途中出場の日本代表DFが試合をひっくり返した。

 そもそも第1戦のアウェーはスコアレスドローに終わっていた。8月26日、ソウルから高速バスで約4時間の全州W杯スタジアムで行われた。ビビンバ発祥の地で「韓国の台所」と呼ばれる食の豊かな町。G大阪は少し早めの23日に全州入り。ホテルでの初めのご飯はやっぱりビビンバだったようだ。

 試合は、エースFW宇佐美貴史(23)やFWパトリック(27)がしつこいくらいにマンツーマンでマークにつかれ、相手DFを崩しきれない。必死の攻防が続いた。そんな中、1人スタンドからやり切れない思いを抱えて見ていたのが米倉だった。ACLの大一番でベンチ外を味わった。自分が入るべきだった右サイドバック(SB)には、日本代表DF丹羽大輝(29)が入った。

 長谷川健太監督(49)は「全州の左サイドのブラジル人を止めるために、大輝(丹羽)を右SBに入れた。高さも必要だった。もし、1点が必要な状況になってもヨネ(米倉)を投入するという選択肢はなかった」と説明。米倉を呼び出して理由もきっちり話した。

 翌27日、W杯アジア2次予選に臨む日本代表発表があった。悔しい思いを抱えていた米倉は初めてW杯予選に参加することとなった。ハリルホジッチ監督からは8月上旬の東アジア杯中国戦でのアシスト、球際の強さが認められた。しかし、米倉自身は「クラブでレギュラーをつかめていない。ガンバでしっかり結果を出さないといけない」と、代表選出も喜びきれないところがあった。

 9月10日、代表のイラン遠征から帰国し、米倉が最初に話したことは「まだまだやるべきことがあると分かった。ガンバでやらないと意味がない。すぐに出られなくなる。ACLに出たいんで」。そのために12日のリーグのアウェー鹿島戦がアピールの場所だった。しかし、思い通りのプレーができなかった。翌13日「俺にACLって関係ないのかな」と珍しく弱音を吐いた。聞いていたこちらも思わず胸が締め付けられそうになるくらい悔しさが伝わってきた。

 冒頭の話に戻るが、結局16日のホーム全北戦で米倉はベンチスタートだった。それでもわずかなチャンスをもらって、後半ロスタイム弾でチームの危機を救った。「悔しさを晴らした」ことはそうなのだが、ACLで、万博で、G大阪の一員として、プレーできる喜びを感じていたように見えた。結果が全てのプロの世界。でも、あの瞬間は米倉の楽しむ気持ちと必死な思いが合わさって、ゴールにつながったように感じた。

 23日、G大阪は大阪・吹田市内で公開練習を行った。ACL準決勝進出を決めてからは初めてファンサービスも行われた。米倉は多くの人から「ACL感動しました!」と声を掛けられた。でも「もう過去のこと。次の試合に切り替えないといけない」。リーグ戦、天皇杯、ナビスコ杯、ACL、そしてクラブW杯。頂点へのチャンスは残っている。米倉の挑戦はまだまだ続く。【小杉舞】


 ◆小杉舞(こすぎ・まい)1990年(平2)6月21日、奈良市生まれ。大阪教育大を経て14年、大阪本社に入社。1年目の同年11月からサッカー担当。今季の担当クラブはG大阪など。