J2の地方クラブは、なかなか紙面で取り上げられることはない。

 だからという訳ではないが、29日のJ1昇格プレーオフ(PO)C大阪-愛媛戦を取材し終えて、なんだか記事が書きたくなった。

 今季の愛媛の快進撃。

 もしやすると、最も驚いたのは、率いていた木山隆之監督(43)だったかも知れない。リーグ戦は19勝8分け15敗で、4位C大阪に勝ち点わずか2差の5位。そのC大阪とのPO準決勝は、気迫のこもった試合だった。結果は0-0でリーグ戦で成績上位のC大阪が決勝に進んだが、勝ちたいという意欲、戦う気持ちは、愛媛の方が上だったように感じた。後半ロスタイムにはショートコーナーから、あと少しで決勝弾という見せ場も作った。ひたむきにボールを追う姿に、胸を打たれたのは私だけではないだろう。

 会見で、木山監督の言葉は印象的だった。

 「僕自身、感動しました。素晴らしいプレーだった。全て、やれることは出し尽くした。ただ、少し足りなかった。今年、彼らが見せたものは、愛媛の人たちに希望を与えるものだったと思います」

 プロの試合で、なかなか「感動した」なんてコメントを残す監督はいない。まるで甲子園を去る、高校野球の監督のようにも見えた。

 豊富な資金力で選手をかき集めるクラブとは違う。泥臭さや、はい上がる精神力といった、スポーツの原点を思い出させてくれたのが愛媛だった。

 選手の年俸を含むクラブの人件費は2億5000万円程度。J1レベルのC大阪の5分の1ほどで、J2でも最低レベルにあるという。木山監督は「1年を通して戦って、目に見えない壁もあった。我々がJ1に行くには、足りないものがたくさんある。J1はそんなに甘くはない。我々は、これからもコツコツとやっていく」と現実を見据える。それでもデカイ夢を追い続けてきた野心は、確かに感動的でもあった。

 まるで高校球児のような丸刈り頭のFW河原和寿(28)には、完全燃焼した充実感が漂っていた。

 「悔しいですけれど、満足しています。愛媛は野球、野球という土地柄。でも、少しずつサッカーという流れに変わってきている。そのきっかけを、少しでも僕たちが作れたのならば、それだけでもうれしい」

 もしも…。愛媛がPOを制して初の昇格を果たしたとしても、J1で戦える環境を整えるのは難しいだろう。

 それでも、思わず応援したくなるような魅力が、今季の愛媛にはあった。


 ◆益子浩一(ましこ・こういち) 1975年(昭50)4月18日、茨城県日立市生まれ。04年からサッカー担当。W杯は10年南アフリカ、14年ブラジル大会を取材。今季の愛媛のように、故郷茨城のJ2水戸が快進撃を遂げるシーズンを楽しみにしています。