サッカー担当になって約1カ月半が過ぎた。ある選手の優しさ、気遣いが強くに印象に残っている。

 12月2日から5日まで松本の練習に参加したシンガポール代表GKイズワン・マフムド(25)である。

 12月1日。シンガポールから来日するイズワンを成田空港で待っていた。ただ不安があった。乗ってくる飛行機は分かっている。スマートフォンで写真を調べ、何度も確認した。ただ生で会ったことはない。「見つけられるのか…」。自信はまったくなかった。

 だが、杞憂(きゆう)だった。紙面でも触れたが、「We welcome IZWAN to Japan」と書いたボートを掲げていると、自ら近寄ってきて、握手までしてくれた。

 まさかイズワンから来てくれるとは…。初対面の異国の記者にも気さくに応じてくれた。サッカーW杯アジア2次予選の日本戦でスーパーセーブを連発したシンガポールの国民的英雄である。正直、度量の大きいまさかの対応に驚かされた。

 その姿は練習場でのファンに対しても同じだった。連日、大勢のファンからのサイン攻めにあったが、誰1人断ることはなかった。片言の日本語で「ありがとう」と感謝を述べる場面もあった。「ファンサービスが丁寧ですね」と伝えると「私にとってもモチベーションになるんだ」と話していた。まだ練習参加という身分のため、通訳もついていない。練習後は、英語がろくに話せない私のために、筆談でコメントをくれた。申し訳なくなり、「sorry」と謝ると、屈託のない笑顔で、肩をたたいてくれた。行動の端々に優しい人柄がにじみ出ていた。

 当時の取材ノートには、日本のファンへのメッセージ、筆談でくれたコメントが残っている。その文字を見返す度、温かい人柄、優しい笑顔を思い出す。希望する日本でプレーできるかは、まだ分からない。だがどこの国へ行こうと、その足跡を追っていきたい。スーパーセーブの数々だけでなく、応援したくなる魅力がイズワンにはあった。【上田悠太】


 ◆上田悠太(うえだ・ゆうた)1989年(平元)7月17日、千葉県市川市生まれ。明大を卒業後、14年に入社。文化社会部・芸能班に配属されTBSなどを取材。11月からサッカー担当。Hデスクの影響を受け、最近温泉巡りにはまりつつある。