熊本地震の影響でいまだ活動を中止しているJ2熊本が4月25日、熊本市内で自主トレを開始した。取材先の人工芝グラウンドを訪れると、笑い声が響いていた。集まったのは、選手全29人のうち14人と、スタッフ12人。フットサルコートなどを使いミニゲームに興じる表情が明るくて、胸をなで下ろした。

 実は、被災でピリピリムードを想像したからだ。現地では野球、サッカーなどスポーツチームの現状取材にも回った。熊本の場合、クラブハウスが断水中で、練習に使用する熊本県民総合運動公園がヘリポートになり、本拠地のうまスタは救援活動の拠点になっていた。自衛隊の車両がスタジアムを頻繁に出入りし、とてもサッカーどころではないと思った。記者会見で熊本出身のFW巻誠一郎(35)が泣きじゃくる姿には胸が締め付けられた。だから、重いムードの中での練習再開を心配していた。

 それは杞憂(きゆう)だった。当日は練習後、未就園児から高校生まで約200人を対象にしたサッカー教室も開催し、熊本の選手10人が参加した。浦和と神戸の選手たちも駆けつけた。この時の子供たちのキラキラとした目の輝きが忘れられない。被災した現実もなんのその。選手と一緒にミニゲームを楽しむ姿に、スポーツが勇気や元気をもたらすことをあらためて教えられた。熊本の選手たちも同じ思いだったのではないだろうか。子供と触れあう表情は生き生きとしていた。

 大きな被害のあった益城町出身のMF嶋田慎太郎(20)は「自分の育ったまちで起こったので、地域のためにも勝利が大事。熊本のために精いっぱいできることをしたい」と語った。自主トレの先行きは未定で、5月2日に再開予定の全体練習の場所、本拠地を使えるメドもよく分からない。それでも、熊本は5月15日の千葉戦(アウェー)でリーグ戦に復帰するという目標を立てた。コンディションづくりのハンディはあっても、そのプレーで被災地に希望を与えてほしい。

 避難生活のなかで選手、子どもたちが一緒に浮かべた笑顔が脳裏に焼き付いている。スポーツの持つ力を強く肌で感じた。だから、信じている。きっと熊本は立ち上がる。【菊川光一】


 ◆菊川光一(きくかわ・こういち)1968年(昭43)4月14日、福岡市生まれ。福岡大大濠高-西南大卒。93年入社。写真部などを経て現在報道部で主にJリーグなど一般スポーツを担当。プロ野球などのカメラマンも兼務する“二刀流記者”。スポーツ歴は野球、陸上・中長距離。