「うまさも欲しいし、スピードも欲しいし、体の強さも欲しいし…。今、全部欲しいね」。横浜MF兵藤慎剛が自身のスキルで足りないものを補うとしたらとの問いにこう答えた。

 7月29日、兵藤は31歳の誕生日を迎えた。Jリーガーの選手寿命は短い。20代で一線を退く選手も多い中、横浜はMF中村やDF中沢など今でも主力の“おじさん”プレーヤーがいる。兵藤もスタメンでの出場機会が減ったとはいえ、必ずベンチに名を連ねる。ルヴァン杯の予選も6戦中5戦に出場し、決勝トーナメント進出に貢献した。リーグ戦の合間に行うため、ターンオーバーで若手選手が多く出場。その中で試合の流れを読み、ピッチを縦横無尽に駆け回り若手のミスをフォローする。兵藤らの存在はとても大きかっただろう。

 早大を卒業して横浜に入団し9年が経つ。「チーム内でも年上の人たちもいてまだバリバリでやっていますし、良い手本が身近にいて、長くサッカーをするにはどうしたらいいか実践してくれている人たちがいる。それを見ながら良い刺激を受けてやっていきたい」。練習でも試合でも兵藤の笑顔には癒やされる。何よりもサッカーを楽しんでプレーしていることが伝わってくる。練習後には居残って若手とランニングやフィジカル系のトレーニングをメインに黙々と取り組む。兵藤に限らず、横浜は中村などベテランが必ず居残り練習をこなす。何歳になってもうまくなりたいと向上心を持ち続けているからこそだ。兵藤も「今シーズンはあまりスタメンで出られていないので、そういう部分ではポジション取り返したいなっていう気持ちもある。途中から出た中ではやっぱりチームが勝つまでに何が出来るか。プラス自分の良さや持っているものを出せないとアピール出来ない」と話す。現役である以上、若手にポジションを譲る気は毛頭ない。

 今シーズン、リーグ戦で1度だけベンチ外になったことがある。それは6月11日のホーム川崎F戦に向けた練習中に肋骨(ろっこつ)を骨折していたのだ。もちろん今では完治しているが「打撲だけだと思ってたら折れてた(笑い)。1本くらいなら大丈夫ですよ」とサラリと言う。試合中に接触しても痛むそぶりは少ない兵藤だが、ここまで痛みに強いのも超人ではないか。

 「いい選手っていうのは監督が替わってもずっと出続けられる選手。そういう部分で試合に出れていないということは、まだまだ自分に足りないことが多いってことだと思う」。兵藤が中沢や中村らを見て、刺激を受けるように、兵藤の背中を見て刺激を受ける若手もいる。横浜の強さはやはりベテランの頑張りがあるからこそだと思う。


 ◆青木沙耶香(あおき・さやか)1992年(平4)8月29日、東京都生まれ。上智大を経て15年東京本社に入社。5月からスポーツ部サッカー担当に配属。今季はJ1横浜と大宮を担当。