リオデジャネイロ五輪と高校野球の甲子園大会が終わった今、Jリーグが佳境を迎えようとしています。

 私が担当するJ2清水は現在5位。30試合を終え、リーグトップの57得点を挙げています。一際存在感を放っているのが、FW鄭大世(32)。得点ランクは単独トップの17ゴールを記録しています。クラブ記録の6試合連続得点にあと「1」に迫る5戦連発をマーク。ただ、今シーズン序盤は決して順風満帆ではありませんでした。

 「一番体がキレていた」2月の鹿児島キャンプ終盤に父が他界。数日後の練習で左足小指を骨折しました。開幕戦出場が絶望となった直後の同月23日に第2子となる長女が誕生。この時期は心身ともに疲弊していたと思います。

 今季初ゴールは開幕から8戦目のホーム讃岐戦。そこからゴールを量産し続けました。それでも、鄭本人は「たまたま取れているだけ。ゴールは水もの。水を運んでくれる人に感謝しなければいけない」と謙虚に話していました。

 好調の要因の1つは家族の存在だと思います。ピッチを離れれば2児(1男1女)のパパで「いい父親でいることでコンディションを保てる」と話していたこともあります。骨折していた時期には長男を寝かしつける午後9時前に鄭自身も就寝。規則正しい生活を送ることで常に安定したパフォーマンスを発揮できているのだといいます。

 「子どもができたことで色んな考え方が変わった」。心境の変化はプレーにも表れています。06年から10年途中まで在籍した川崎F時代は強引なプレーが身上。ゴール前ではエゴを出して、ゴールを取ることだけに執着していました。ただ、今は前線から守備も怠らず、味方を生かすパスも出します。周りの選手を生かすプレーが増え、ここまでチーム2位の6アシストを記録。ゴール数(17得点)を含めれば、23ゴールに絡む活躍でチームをけん引してきました。

 J2は残り12試合。自動昇格圏の2位松本とは勝ち点6差で、鄭は「自分たちの攻撃を毎試合できれば、逆転できる数字。プレーオフは絶対にやりたくない。2位以上を目指す」と言い切りました。

 2月に父を亡くし、開幕前に左足小指の骨折。それでも、家族の支えがあって、今は絶対的エースとしてJ1復帰を目指すチームを引っ張っています。激動のシーズンを「昇格」で締めくくることができるのか-。この目でしっかりと追っていきたいと思います。

 ◆神谷亮磨(かみや・りょうま)1985年(昭60)8月28日、静岡市清水区生まれ。幼稚園からサッカーを始め、高校は東海大静岡翔洋(旧東海大一)でプレー。08年入社。担当は11、12年にJ2磐田、13、14年にアマチュアサッカー、15年から清水。