元日本代表MFが愛すべき後輩を残して仙台を去った。11月27日に契約満了に伴い退団した水野晃樹(31)だ。04年に千葉でプロデビュー。イビチャ・オシム元日本代表監督の指導を受けて才能を開花。07年にはオシム氏率いる日本代表に選出され、4試合に出場。08年には、海を渡り横浜MF中村俊輔(38)も所属したセルティックに移籍した。今季仙台に加入し、リーグ戦に8試合出場で無得点。出場時間は限られていたが、練習中にドリブルで駆け上がる姿は勇ましかった。その水野の仙台最後の3週間を振り返ってみた。

 オフシーズンの練習後に、たびたびMF佐々木匠(たくみ、18)とともに走る姿を見かけた。シーズン中の練習後はすぐに引き揚げていたので不思議に思い、「何で一緒に走っているのですか」と尋ねた。「オフだからトレーナーも止めないし」ととぼけた水野。佐々木に聞くと照れながら「サッカーのこととかですよ」と答えてくれた。佐々木も水野同様のドリブラー。世代別の日本代表に選ばれてきた若手のホープだ。水野は自分と似た空気を感じて、話しかけていたのかも知れない。

 そして11月27日。この日は今季のクラブの練習最終日ということもあり、ミーティングが行われるクラブハウス前には多くのファンが駆けつけていた。ミーティング終了後間もなくすると、水野の退団がクラブ側から報じられた。ファンが知らないまま仙台を去ることに抵抗があった、水野本人の要望だったという。だが、退団については選手にも知らされていなかった。佐々木は事実を知るや、「来年もいるって言ったのに」とミーティング中に涙を流したという。

 水野は報道陣を前にして「オファーを待ってます」と他クラブへ、売り込みをした。取材中、佐々木が水野の近くに来た。また泣いていた。後輩の男泣きを見た水野は、「若手とおっさん選手の懸け橋になれたかな」。これまで6つのクラブを渡り歩いてきた。ともに生きる家族を大切にしながらも、「35歳までは現役でやらせて。次のチームではサッカーで引っ張っていきたい」と目標は決まっている。ベテランとしてチームを鼓舞し続け、円熟味を増した水野の今後から目が離せない。【秋吉裕介】