アルビレックス新潟の生え抜きで主力になった選手には、遅咲きの傾向がある。

 リーグ戦でシーズン20試合以上のスタメンをレギュラーの基準と仮定すると、MF本間勲(35)は6年目の05年、フィンランドのHJKヘルシンキでプレーするMF田中亜土夢(29)は7年目の11年、今季の主将、DF大野和成(27)は8年目の15年。いずれもそこからレギュラーに定着している。

 今季、その系譜に名を連ねようとしているのが、8年目のMF加藤大(25)だ。昨年、28試合出場中24試合でスタメン。今季は初の開幕スタメンを果たし、2試合連続フル出場している。今季は定位置を確固たるものにする期待がかかる。

 Jリーグ・トラッキングデータでは第2節神戸戦の走行距離が13・07キロと同節のランキング2位。CKを左右とも任されるなど、運動量とキック力を兼ね備えたレフティー。サッカーセンスそのものについても、歴代の指導陣が高く評価してきた天才肌だ。

 一方、そのタイプにありがちな、熟し切れない一面も見え隠れした。ひらめきのようなプレーが目立ち、試合中に周囲から浮く、または流れから消えてしまうケースが少なくなかった。まじめで愛想は良いが、自ら話す方ではない。練習では、加藤の声が響く場面に、あまりお目にかかれていなかった。

 それが今季は少し違う。練習時に声が届く。後輩に自分から声をかける。「キッと表情が引き締まるときがある。気持ちが出るようになってきました」。三浦文丈監督(46)も雰囲気の変化を感じている。

 加藤自身も変わろうとしいる。年が明けてから毎日、黒酢を飲んでいるという。「1日カップ1杯ですけどね。疲労回復が早い気がします」。ほかの選手からすれば、普通のことかもしれない。ただ、これまで体調管理も「眠くなったら寝る」といったように、本能的に行ってきたタイプ。自分の体に目を向けたのは進化の1歩だ。

 「ハイセンス」「高いポテンシャル」。そう評価されながらくすぶり、消えていった選手は数多くいる。才能があるためか、自分のスタンスに固執し、少しの変化も意識的にできないまま開花できなかったように思う。

 経験を重ね、加藤は気づき始めたのだろう。能力が高い分、行動を起こせば進行は早い。つぼみを付け始めた天才。どういった花を咲かせるのか注目したいシーズンになる。【斎藤慎一郎】

 ◆斎藤慎一郎(さいとう・しんいちろう)1967年(昭42)1月12日、新潟県出身。15年9月から新潟版を担当。新潟はJ2時代から取材。サッカー以外にはBリーグ、Wリーグのバスケット、高校スポーツなど担当。