東アジアE-1選手権女子は全日程を終え、3大会ぶり3度目の優勝を目指したなでしこジャパンは(FIFAランキング9位)2位に終わった。

 15日の最終戦は北朝鮮(同11位)に0-2で敗れ、いまだ再建への道は見えてこない。

 試合後、FW岩渕真奈(24)は真っ先に取材エリアに姿を見せた。途中交代した岩渕のその表情からは、不完全燃焼に終わった自分自身へのいら立ちが感じ取れた。

 岩渕 ゴールに向かっていたのか? シュートを打っていないことは申し訳ないと思っています。負けたのが現実です。相手のプレスが速かった、では片付けられない。後半になっても相手の体力は落ちなかった。強かったと思います。(こういう結果に終わると)良いサッカーって何だろうと…、(私たちに)実力が足りないだけだと思います。結果で答えるのが代表。何も残らなかったと思います。

 まだ敗戦の現実を受け入れられないのか、ぶぜんとした表情が際立つ。その後ろを、試合中に何度も岩渕を挑発したキム・ナムヒら北朝鮮のDF陣が、優勝の余韻に浸りながら通り過ぎて行った。

 岩渕は2トップとしてスタメン出場。ボールを前線で収め、もしくはドリブルで相手ゴール前にボールを運ぶことが期待された。

 前半から相手DFはことあるごとに、ボールと絡まない場面で岩渕を腕で押すなどして、挑発を繰り返した。岩渕もにらみ返し1歩も引かない。そういう状況が続いた。岩渕自身の出来はそれほど良くはないが、FW田中とのパス交換でリズムをつくりだそうとする意図は感じられた。

 しかし、北朝鮮選手と激しくやり合う岩渕に対して、チームメートやベンチからのフォローは記者席からはあまり感じられなかった。国際試合で相手選手とマッチアップする時は、ポジションを巡って体をぶつけ合ったり、ユニホームをつかみ合うなどの争いは常にあう。

 そうした場面で一切心を乱さず、淡々と処理する香川のような選手もいる。岩渕は、危険なポイントゲッターとして厳しいマークに遭っており、北朝鮮の反則スレスレのチェックに、真っ向から応戦していた。

 それが東アジアにおけるライバル国との現実の一端であり、そこで引いていては精神面で相手を勢いづかせてしまう。そういう意味では岩渕はよく戦っていたと感じた。

 だが、後半になるとチェックは激しさを増す。10分過ぎにはボールがまったく絡まないところで、170センチ近くあるキム・ナムヒが右足で岩渕の足を蹴る。間髪入れず、身長差のある岩渕も負けずに両手で突き飛ばす。女子の試合ではなかなか見られない荒々しいシーンだった。しかし、記者席から見ている限りでは、岩渕は孤軍奮闘に見えた。

 直後、高倉監督は岩渕をベンチに下げる。後半17分、岩渕に代えてMF中島をピッチに送った。交代理由について高倉監督は「岩渕は少しイライラしていて、リズムを作れていなかった」と説明した。

 なでしこジャパンは世代交代の真っただ中にある。黄金時代のレギュラークラスで今もチームに残るのは、今回の国内組の招集としてはMF阪口、DF鮫島くらいだ。その中で、岩渕は新生なでしこを引っ張る中心的な立場にあり、その気持ちが強すぎるのか、相手との駆け引きでは熱くなる傾向もあった。

 ただ、熱くなったから交代していては、ギリギリの勝負となる国際試合では、主軸の活躍は期待できない。試合の中でイライラしたのなら、試合の中で気持ちを静め、全体を見渡しながらマッチアップする相手に競り勝たないと、真の成長は見込めない。

 選手交代は高倉監督の判断だが、監督自身にどの選手に命運を託すかの決意があるのか、疑問が残った。

 抜群のドリブルはあるがサイズは小さく、中国、北朝鮮のDFとの争いでは、岩渕は燃えるような闘志で立ち向かうしかない。ならば、試合の中でメンタルをコントロールできるように導いていくしかない。そのためにはピッチで戦うチームメートも、ベンチの監督、コーチ、スタッフも一緒になって岩渕と戦う姿勢を見せる必要があるのではないか。

 試合後、取材エリアの最後に澤穂希さんが控えていた。岩渕は澤さんと時間をかけて話し込んでいた。チームメートや監督に言えないこともあったのだろう。なでしこジャパンは来年4月からW杯フランス大会のアジア最終予選を戦う。今のままでは、相当な苦戦が予想される。岩渕にかかる負担もまた、想像以上のものがあるように感じた。【井上真】



 ◆井上真(いのうえ・まこと)1965年(昭40)1月4日、東京・小金井市生まれ。90年入社。野球、相撲、サッカー、一般スポーツを担当。入社当初はプロレス取材。サーベルをくわえた狂虎タイガー・ジェット・シンに追いかけられ、ワープロを捨てて逃げた。