今季からJ1に昇格したV・ファーレン長崎。ゴールを目指す選手のほかに、ピッチ外でも新たな挑戦が始まっている。通信販売大手「ジャパネットたかた」創業者でもある、クラブの高田明社長(69)が3月10日にホーム(トランスコスモススタジアム長崎)で行われた第3節の浦和レッズ戦後、運営面の改善や目指すクラブ像について語った。

 試合はFW鈴木武蔵のPKで先制したものの追いつかれ、初勝利を逃した。開幕から3試合続けてリードしながら引き分けとなったが、「あそこまでいけたら勝ってもおかしくない。いい試合をしていた」と選手をねぎらった。

 試合前、高田社長はスタジアムで約300人の浦和サポーターと会話したという。「熱い」ことで知られる彼らから写真撮影を求められたといい、「『今日は勝たせてもらいますよ』『それはダメです』と、ジョークも言い合えたりした」と穏やかに笑った。試合後は浦和サポーターの集まりにも顔を出し、ざっくばらんに会話を楽しんだという。なぜ長崎でなく浦和なのか。「サッカーという立ち位置での使命感だと思うんです」。

 高田社長は話を続けた。「ホームとかアウェー、勝ち負けじゃなくなる文化を作ることが、野球(人気)に追いつくことなんじゃないか。それができて初めて、長崎を代表するクラブになれると思う」。大きな枠で見れば、スタジアムに来るのはクラブ関係なくサッカーが好きな人たち。クラブ愛はもちろんあるが、その先にある勝敗を超えた交流がスタンドで実現してほしい。それが高田社長の願いだ。

 そのためには、スタジアムも魅力的でなければならない。J1に昇格した今季、運営面でさまざまな改善を試みている。ホーム開幕戦となった第2節(3月3日)は駐車場の渋滞やグッズ売り場に伸びた長蛇の列が課題として残った。高田社長は「この1週間、ジャパネットホールディングス全体で解決に取り組んできた」という。

 グッズは素早く販売できるようにバーコードをとりつけた。問題は駐車場だ。他の行事などによっては使用する駐車場を変えたり、有料か無料かも変わってしまう。「つらいけど現実だから」。今回は警備員の数からコーンを置く場所まで1つ1つ考え直した。試合2日前からは再検討の作業は午前3時ごろまでかかった。10日の試合は大きな混乱もなく、確かな改善が見られた。高田社長は「今のグッズ売り場の待ち列もさらに半減させたい」と満足はしていない。

 まだまだ課題はたくさんあるというが、「5月までにすべてを改善の方向に向かわせたい」と高田社長。W杯ロシア大会が開催される中断期間で具体策を実行し、夏にはさらに快適なスタジアムとなってサポーターを迎えることが目標だ。

 開幕前に各メディアの順位予想でことごとく最下位になっているのを見た。見かけた中では最高でも降格をぎりぎり免れる15位だった。これを見て、逆に勇気づけられた。「上を目指すにはそれでいい。いきなり『このまま優勝だ』なんて言われると、固まっちゃいますから。裏切りたいですね」。ピッチで戦う選手を見守りながら、高田社長らクラブ全体も苦労し、悩む中で前に進んでいる。【岡崎悠利】


 ◆岡崎悠利(おかざき・ゆうり)1991年(平3)4月30日、茨城県つくば市生まれ。青学大から14年に入社。16年秋までラグビーとバレーボールを取材し、現在はサッカーで主に浦和、年代別日本代表を担当。