これから世界中がワールドカップ(W杯)に熱狂する特別な1カ月に入る。サッカーファンにとって、クラブチームとはまた別格の、国を代表して戦う最大の祭典に一喜一憂することになる。

 日本代表選手も続々と帰国し、シューズメーカーのイベントなどに出席しては海外で得た生の感想をファンやメディアに披露している。その中で、FW宇佐美貴史(26=デュッセルドルフ)は、20日に都内で行われたアディダスの新スパイクのイベントで、海外と日本の違いについて具体的に、わかりやすく話してくれた。

 宇佐美 パスの速さですね。全然違いますね。最初、シュートみたいなパスが飛んできて、もう『うわっ』って感じでした。この距離で、こんな強いボール飛んでくるんだって思いました。

 この言葉に、イベントに同席していたジュビロ磐田の名波監督も、FW武藤嘉紀(25=マインツ)も即座に同意していた。パスのスピードの違いは、これまでも何度か話題になったことがあるが、「シュートのようなパス」という表現に、宇佐美や武藤がおかれている環境がいかに日本と異なるかを少しだけ実感することができた。

宇佐美貴史(2018年3月20日撮影)
宇佐美貴史(2018年3月20日撮影)

 強いパスと、シュートのようなパスでは、受け手の技量は雲泥の差となって表れる。強いパスを受けることは出来ても、シュート級のパスとなればトラップできずはじき、それがボールロストとなり、相手のカウンターにつながってしまう。

 宇佐美 ボールロストはできないですよね。向こうのチームはカウンターの時に、数人で襲いかかってくるようにプレスをかけてくるんです。もう、怖いって感じで。だから、これではロストできないって、それは本当に実感してました。

 つまり、味方のシュート級のパスを収め、襲いかかってくるDF陣をかわしながら前にボールを運ばなければならない。日本人が海外で苦しむのはフィジカルと言われるが、このパススピードは実は非常に重要な要素と言えるのではないか。だからこそ、宇佐美はドイツでさらに自分が上に行くためのビジョンを持っている。

 宇佐美 さらに技術を上げたいですね。技術に加えて技術ですね。例えば、ボールの置き所で、いろんな工夫ができますから。

 強烈なパスを受けつつ、瞬時に次のプレーを念頭においたところにボールを置く。それができれば、相手DFが飛び込んできてもかわすことができる。そのボールの置き所がほんの数センチでもずれれば、屈強なDFのえじきになり、カウンターの起点になってしまう。

 宇佐美の戦うドイツのレベルと、日本の違いは非常にわかりやすいところにあるのかもしれない。

 そういう意識を持って、21日に東京近郊での日本代表合宿初日を見た。鳥かご(外側の5~6人で、内側の2~3人に奪われないようにボール回しをする練習)で、宇佐美はダイレクトで強めのパスを何本も通していた。確かに、その音が他の選手と格段に違っていた。「ドンッ」という重さを感じさせ、ボールの芯をシュート並の強さで捉えていた。その宇佐美が舌を巻くのだから、ブンデスの猛者たちのパススピードは本当にシュートの威力だと連想できた。

日本代表の合宿で西野監督(後方)はパス回しをする選手を見守る(撮影・山崎安昭)
日本代表の合宿で西野監督(後方)はパス回しをする選手を見守る(撮影・山崎安昭)

 この姿を、Jリーグや、その下部組織、大学、高校サッカーの指導者、選手が見ることができれば、そのパスの速さを身をもって感じることができる。宇佐美の技術には、そんな海外の貴重な情報も集積されている。【井上真】