J1仙台に激震が走った。4年目で今季日本人得点ランクトップタイをマークしていたFW西村拓真(21)が、シーズン途中にロシアのCSKAモスクワに電撃移籍した。キャリアハイとなる11ゴールをたたき出した生え抜きは、クラブ史上初となる海外移籍を実現させた。移籍市場がクローズするぎりぎりのタイミングで「悩む時間がなかった。夢はW杯で優勝すること。今行く必要があると感じ即決しました」と、まさに急転直下の出来事だった。J1最下位レベルの人件費で戦う地方クラブに、3000万円超ともいわれる違約金を残していった。

西村が新たな挑戦を即決した理由は明確だ。それは「ゴール前でのゆとり」にある。昨季のルヴァン杯でニューヒーロー賞を獲得した一方、リーグ戦28試合で計35本のシュートを放つもわずか2得点と、決定力不足を露呈した。「もっと確率を高めたい」と課題克服のため、今春キャンプから福永泰コーチ(45)に師事。仙台OBでもあり、浦和でリーグ戦計26ゴールをマークした偉大なアタッカーが見守る中、居残りシュート練習を繰り返してきた。その貪欲な姿勢はチーム関係者に「泳ぎ続けるマグロのよう」と言わしめるほどだった。納得のいくまで行われる反復練習で、仕留める確率を高めてきたのだ。

「ゴール前でのゆとり」を生み出したのが、ファーストタッチの精度向上にあるという。技術力が向上し、足元を見ずに自信を持って顔を上げてプレーすることができるようになり、瞬時に味方と相手ディフェンスの位置を確認することで、冷静にフィニッシュ動作に移行できるようになったという。今季は24試合で計45本のシュートを放ち11得点。決定率は昨季の5・7%から24・4%までにはね上がった。移籍が決まる2カ月前に聞いた福永コーチの話だ。

福永コーチ 昨年まではスピードに乗った状態のまま力んでシュートミスすることが多かったが、今季は積み重ねてきた部分が試合での結果につながってきている。ファーストタッチは、次のドアを開ける鍵。そこの質が高まることで、顔を上げて相手を見ることができていることが大きい。今はマーカーに対して主導権を握ってアタックできている。相手が嫌なボールの置き方、勢いをうまく使って抜け出すスピード、緩急を使ったりしてしっかりシュートまでいけている。時間の制約はあるが、居残り練習はなるべく本人が納得いくまで続けさせています。探求心が強く、満足の文字はない。いろいろな人の話に耳を傾けて貪欲に取り入れてきたからこそ、今の彼があると思います。ボールに対して軸足をどこに置くとか、細かいところを突き詰めて枠をどうとらえていくのか。プラスアルファで相手の出方を予測して、経験値として積み上がっていけば、もう1段上に行けると思います。

CSKAモスクワは、今月開幕する欧州チャンピオンズリーグであのレアル・マドリードと同組に入った。今秋にも、前人未到の4連覇を狙う銀河系軍団と相対する西村のファーストタッチが、楽しみでならない。

◆下田雄一(しもだ・ゆういち) 1969年(昭44)3月19日、東京都生まれ。Jリーグが発足した92年に入社し写真部に配属。スポーツではアトランタ、長野、シドニー五輪などを撮影取材。17年4月に2度目の東北総局配属となり、同11月から仙台を担当。

ゴールを決める仙台FW西村拓真(2018年3月31日撮影)
ゴールを決める仙台FW西村拓真(2018年3月31日撮影)