J1の残留争いが近年まれに見る大混戦だ。中位でも残留争いに巻き込まれそうなほど、残り試合、1戦1戦が落とせない。その中、現在全18チームで唯一3連勝中なのはJ2自動降格圏17位のG大阪。シーズン当初から苦境に立っていたG大阪だが、徐々に勢いを取り戻しつつある。

前節の清水戦で今季初の3連勝を記録。決して万全な状態、完璧な試合展開とはいかないが、勝ち点3を積み重ねている。7月、今季就任したブラジル人のレビークルピ監督が成績不振で解任され、J3G大阪U-23を率いていた宮本恒靖監督(41)が昇格した。

宮本体制後はリーグ戦4勝3分け3敗と現時点で勝ち越している。試行錯誤を続けながら全力を尽くす指揮官。現役時代から人気抜群で冷静な宮本監督だが、残留へ向けて心がけていることがある。

それは、つかんだ運を離さないこと。そして、味方を増やすことだ。前節の清水戦、前半に2点リードして迎えた後半、相手の猛攻に耐える時間帯が続いた。1点差に迫られ、一方的な清水ペース。相手に決定機を作られる中、ゴールポストに2度助けられて何とかしのぎきった。

試合後の記者会見、指揮官は「少し運に助けられた」とホッとした様子だった。その感謝は忘れなかった。宿舎に向かうバスに乗り込む前、1人ピッチに戻り、左右のゴールポストをなでに行った。「お礼をね」と宮本監督。実はG大阪がJ1初優勝した05年、勝てば優勝の可能性があった最終節のアウェー川崎戦、同点の後半11分に当時主将だった宮本監督のヘディングシュートがゴールポストに当たって得点となった。一時の勝ち越し点。結果4-2で勝利し、2位から逆転でJ1初制覇を果たした。

当時も宮本監督は“味方”への感謝を忘れていなかった。試合日にはゴールポストにお礼できなかったため、わざわざ後日に等々力競技場まで出向き、ポストに感謝の思いを伝えにいったという。雨にも風にもピッチにもゴールポストにも。助けてくれた“味方”には感謝を忘れない。律義な宮本監督だからこそ、運をも味方にできるのかもしれない。

運とは少し違うが、指揮官は験を担いでいることがある。G大阪のクラブハウスの駐車場は、ロッカー室への入り口に一番近い場所が監督用の駐車スペースと決まっている。

基本的に選手は入り口に近く、スタッフは少し離れた位置に駐車スペースがある。8月26日の鳥栖戦に敗れ2連敗となった同29日の練習、宮本監督の車が監督用駐車スペースになかった。指揮官に聞くと「流れを変えるのに向こう(スタッフ側の遠い位置)に置くことにした」という。

これは、今も続いており、駐車場所を変えてからリーグ戦は3連勝。「もともと、スタッフは遠いのに監督だけ近くというのも…と思っていた」というが、一体感を大事にする指揮官らしい。

さらにもう1つ。ここ最近、G大阪は試合前のコイントスで勝てば前半に攻めるゴールを変えている。通常、前半はアウェーサポーターのいるゴール側に攻め、後半は自分たちのサポーターのいるゴール側に攻めることが多いが、現在のG大阪は逆だ。これにも、指揮官の思いが込められている。

就任当初、後半に失点することが多く、勝ち点を逃してきた。そこで、攻めるゴールを変えることで、後半は自分たちがサポーターの後押しを受けて攻めるだけでなく、相手に攻められた時、サポーターも声を出して、一緒になって守って欲しいという思いがあるという。

サポーターに「戦力」になってもらいたいという指揮官の考えだ。戦術や技術だけでなく、雰囲気や流れ、一体感を重視し、その全てに感謝する宮本監督。残留争いはここから、今以上に厳しくなる。だが、真面目で優しく、周囲を信じるG大阪の新指揮官をサッカーの神様はきっと見放さないはずだ。【小杉舞】


◆小杉舞(こすぎ・まい)1990年(平2)6月21日、奈良市生まれ。大阪教育大を卒業し、14年に大阪本社に入社。1年目の同11月から西日本サッカー担当。担当クラブはG大阪や神戸、広島、名古屋、J2京都など。