サウジアラビア戦で懸命に守備をする日本代表の選手たち。左から冨安、酒井、長友(撮影・横山健太)
サウジアラビア戦で懸命に守備をする日本代表の選手たち。左から冨安、酒井、長友(撮影・横山健太)

とても新鮮だった。日本代表を20年以上、見てきて、こんな勝ち方は初めてだ。アジアサッカー連盟(AFC)の最終統計によると、日本のボール保持率は、サウジアラビアの76・3%に対して23・7%。私が記憶する限り、アジア勢に対し、ここまで攻め込まれた試合はない。日本の攻撃時間がほとんどなかった。パスが5本以上つながることもあまりなかった。ブラジルやアルゼンチン、スペインなど世界の強豪と対戦しても、なかなかここまで一方的な数字は出ないのではないか。

日本がW杯常連国になって以来、アジアとの対戦でよくあることは、攻めて攻めて10回以上もの決定機を作りながら、決定力不足で得点できず、相手のカウンター1発でやられるパターン。カウンターを許すシーンは、W杯アジア予選で幾度となく経験してきた。試合後、選手たちは反省しながらも「内容は悪くなかった」と開き直る。

サウジアラビア戦は、失点危機こそいくつもあったが正直、失点する気はしなかった。相手のシュートミスにも助けられたが、選手の距離感、バランスが良かった。選手間の距離が適切で、コンパクトだったので、落ち着いた気持ちで最後まで見ることができた。「もし、決定力のある相手なら…」と言う人がいるかもしれないが「たら」「れば」は要らない。決定力のある相手との対戦なら、森保監督は違う戦い方を選んだはずだから。

欲を言えば、日本の後方からのロングボールに反応し、カウンターを得点でしっかりと完成させるFWがほしかった。武藤も堂安も最終ラインまで戻って守備で頑張ってくれたわけだから、これ以上を要求するのは酷かもしれないが。

今後、この戦い方がもっと磨かれ、完成されれば、時間帯や展開によって、攻撃陣が前線で勝負するチャンスも増えるだろう。サウジアラビア戦は「守り倒して勝つ」ことができると見せてくれただけでも、私個人としては大満足な一戦だった。【盧載鎭】

◆盧載鎭(ノ・ゼジン)1968年9月8日、ソウル生まれ。88年に来日し、96年入社。20年以上サッカーを担当し、日本代表の試合は200試合は見てきた。最も好きな選手は中村俊輔。フェンシングにも興味あり。2児のパパ。

◆試合データ AFCの公式サイトによれば、日本のサウジアラビア戦でのボール保持率は23・7%(サウジは76・3%)。サッカー分析会社「データスタジアム」によれば、02年W杯日韓大会以降の計266試合で過去最低は34・0%。ハリルホジッチ監督時代の16年10月11日、18年W杯ロシア大会アジア最終予選のオーストラリア戦(1-1)で記録された。今回はそれを下回った。総パス数も日本197本、サウジ659本と大差。ただ、30メートル以上のロングパスに限れば、日本76本、サウジ77本とほぼ同じ数字だった。

サウジアラビア戦で相手にプレッシャーをかける堂安(左)と南野(右)(撮影・横山健太)
サウジアラビア戦で相手にプレッシャーをかける堂安(左)と南野(右)(撮影・横山健太)