何年たっても、かわいい後輩なのはずっと変わらない。年末年始の高校サッカー取材で、かつて市船橋の一員として全国高校サッカー選手権で活躍したお笑い芸人のワッキー(46)を取材した。市船橋といえば、誰もが知る高校サッカー界の名門で、柏レイソルなどで活躍したFW北嶋秀朗やMF中村直志、磐田の黄金期を支えたMF西紀寛、FWカレン・ロバートら年代別を含む日本代表経験者を多く輩出。最近でも名古屋のMF和泉竜司や、湘南のDF杉岡大暉ら、将来が期待される選手を続々とJリーグへと送り込んでいる。

そんな中で、ワッキーがその出世ぶりを驚くのが、現在リーグ2連覇中の川崎フロンターレを率いる鬼木達監督(44)だ。鬼木監督はワッキーの2学年下の後輩で、1年間ではあるが、厳しい練習に明け暮れた高校時代を共に過ごした。ワッキーによると、当時の鬼木監督は1年生ながらワッキーらと同じAチームに入っており「トリッキーなドリブルをするタイプ。のほほんとしていて、周囲からはよくイジられていた記憶がありますね」。今でも市船橋OBが集まった際には「『あの達が川崎の監督だぞ』って話してます」と笑う。

サッカー部きっての盛り上げキャラだったワッキーにとって、何をしても笑ってくれる鬼木監督の存在は貴重だったという。「特に達を笑わせるためにいろんなことやったのを覚えています。めちゃくちゃかわいがりましたね。かわいらしい後輩でした」。

お互いに立場は変わったが、今でも「達」「脇さん」と呼び合う関係は変わらない。テレビ番組の企画でワッキーが鬼木監督の取材に向かった際は「カメラが回った時は、川崎の鬼木監督ですって紹介したんですけど、達でいいよねって。(鬼木監督も)『僕も気持ち悪いです』って話してました」と振り返る。

今やリーグ2連覇チームの指揮官となった鬼木監督は、今季の新体制発表会で前人未到のリーグ、ルヴァン杯、天皇杯、ACLの4冠へ挑むことを宣言した。選手個々の高い技術と組織力で短くパスをつないで攻める川崎のサッカーは、当時の市船橋のスタイルとは少し違う。それでもワッキーは「俺からしたら、(鬼木監督は)後輩の達のまま。チームをまとめるにあたっては(市船の練習を)通り抜けてきた人間だからこそできたのかなと。チームのどこかに、市船魂があると信じたいですね」。誰よりも鬼木監督を、そして市船を愛する男が、少し願うように話した。【松尾幸之介】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆松尾幸之介(まつお・こうのすけ) 1992年(平4)5月14日、大分県大分市生まれ。中学、高校はサッカー部。中学時は陸上部の活動も行い、中学3年時に全国都道府県対抗男子駅伝競走大会やジュニアオリンピックなどに出場。趣味は温泉めぐり。