今度は少し、笑顔があった。6月のキリンチャレンジ杯2試合に臨む日本代表に選出されたMF橋本拳人(25=東京)。リーグ戦で首位をひた走るチームの、守備の要となるボランチ。発表日の朝、選出のしらせを受けた。「よかったっす」と、謙虚に笑った。

代表デビューを果たした3月のボリビア戦(ノエスタ)は記憶に新しい。突破を試みる相手のドリブルをことごとくストップ。スタンドからは、驚きも交じったような歓声を受けた。「自分の特徴はボール奪取力とか、守備のところ。1発目だったし、変にいろいろやろうとしないでとにかくまずはそこを出そうと」。落ち着きを持ったプレーを見せた。引き続きの選出。前回は追加招集だったが、今回ははじめからメンバーリストに名前が入った。森保一監督から、ひとまず“合格”をもらった。

ボリビア戦は上出来。そんな印象だったことを伝えると、橋本は首を振った。

「きっと、『あれくらいやってもらわないと』と思っているのではないか。自分の想像ですが」

対戦したボリビアに、戦術らしい戦術はなかった。「全員が個のアピールに集中している、そんな印象でした」。監督の目にとまろうと、しゃにむにつっこんできた。パスコースは、あって1つか2つ。対応はむしろ、Jリーグの試合よりもシンプルに感じた。森保監督は、現役時代は自身と同じボランチ。同じポジションを専門としていた指揮官は、自分が抱いた感覚を分かっているのではと感じていた。代表活動後に何度も口にした「代表にまた入れるとは思っていない。東京でいいパフォーマンスを続けたい」という言葉の源は、ボリビア戦がアピールになったとは思わないという自覚にあった。

代表活動中、MF柴崎岳(ヘタフェ)に聞いた言葉がある。「代表に入れば見られ方も変わるし、より高いものを要求されるようになる」。代表に選ばれるということは、日の丸を背負うことに恥じないプレーを常に求められるようになるということ。東京に戻ってから、橋本は「その実感はある」と短い言葉で話す。

重圧をはね返すためにどうするか。

「まず、自分への要求をより厳しくすること」

日本代表を経験したことで、柴崎らのプレーを同じピッチで見た。自分には見えない、または見えても選択しないような狭いところに次々とパスが通った。「ここで生き残るには、改善の余地がたくさんある」。そう自然と感じた。

「これまでだったら『正解』としていたプレーを、すべて疑問の目で見るようになった」。

プレスがないからといって判断に時間をかけすぎていないか。なにげないパスが実は味方の仕掛けを無駄にしていないか-。自身の映像を見返すのにかかる時間は大幅に増えた。「自分に対して『なぜできないんだ』と感じることがかなり多くなりました」。

ただ、これはフラストレーションではない。

「壁にぶち当たることってしんどいですけど、それを喜べずに逃げたらプロじゃないし、先はない」

前節アウェーC大阪戦では0-1で敗れたものの、自陣から前線へ鋭い縦パスを通すなど、「自分の課題」とする攻撃への意識の変化がピッチでも出始めた。守備での貢献という根幹はぶれないまま、また1つ上の次元に突入しようとしている。

前回の活動から約2カ月。パフォーマンスを維持し、ふたたび代表への挑戦権を得た。

「すぐに答えが見つかるとは思っていませんが、代表が終わってから感じて取り組んできた部分もある。それを少しでも出せたら」

短い期間でも成長を示し、新たな壁を見つけることを心のどこかで楽しみにする。屈託のない笑顔の奥に飽くなき探求心をたずさえて、2度目の日本代表に向かう。【岡崎悠利】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆岡崎悠利(おかざき・ゆうり) 1991年(平3)4月30日、茨城県つくば市生まれ。青学大から14年に入社。16年秋までラグビーとバレーボールを取材。16年11月からはサッカー担当で今季は主に横浜とFC東京、アンダー世代を担当。