19年12月末、Jリーグ初代チェアマンで日本協会会長も務めた川淵三郎さん(83)が、ツイッターでつぶやいた。スポーツ界のご意見番が素直に評価したのは、全国高校選手権に大阪代表で初出場した興国・内野智章監督(40)のこと。要旨は次の通り。

「僕らの時代、興国は高校野球の強豪校だった。だからサッカーで大阪代表と聞いてびっくりした。監督のコメントをスマホで見たが、世界を念頭に置いた指導方法とその考え方に感銘を受けた」

就任14年目の監督の指導とは、卒業後も全員が競技を続ける前提で、老後まで楽しめるための技術を習得させること。スペインで老人が平然と、若者に混じってフットサルを楽しむ映像を見たのがきっかけだ。老人は若者以上に技術が高く「1度習得した技術は、簡単には落ちない」と確信。たどり着いたのは「エンジョイ・フットボール」だった。

私立高校の興国は、世界各地へ研修旅行に出向く。サッカー部はスペインが中心。バルサに魅了されて欧州サッカーに没頭した監督は、現地クラブとの親善試合を通じ、戦術や理論も教えた上で、例えば日本人は主張しないと欧米では生きていけない、といった社会を学ばせる。

就任から6年間はプロになる選手はいなかったが、技術指導をベースに軌道に乗ったこの8年間で、現3年生まで含めれば計16人のプロ選手を輩出した。中大などを経てヴィッセル神戸に入ったFW古橋亨梧(24)は19年11月に初めて日本代表入りした。

「プロになるなら興国へ」とうたい文句を掲げる一方、ほとんどがプロになれない現実のため、技術指導で将来の選択肢を広げてあげる。「高校選手権は通過点であってゴールではない」は本音だ。

今回の全国高校選手権では、初戦2回戦で昌平(埼玉)に0-2で完敗した。初出場初優勝の夢は、高い壁に跳ね返された。試合後、少しは揺れる心情を吐露しながらも、ぶれないコメントが続いた。

「この大会は注目が尋常じゃなかった。1カ月すごく楽しかった。勝ち抜くには毎年出て、経験値を積み重ねることが大切。選手を毎回出場させてあげたいが、時の運もある。指導者がここにこだわると終わる。(控室で負けて泣く選手に)泣く前に自分たちを高める努力と、現状を認識しないとだめと言いました。泣くのも選手権の魔力、それは分かっている。でも気合やフィジカルじゃなく、あくまで技術、戦略です」

内野監督は現役時代、和歌山の初芝橋本で95年度の全国選手権でベスト4に進んだ。まだ1年ながらMFで主に途中出場し、当時3年にはFW吉原宏太がいた。吉原が大会得点王になり、進路が未定だったのに複数からオファーが届き、Jリーグ入りを目指す東芝(現コンサドーレ札幌)入りが決まった。こんなシンデレラボーイの先輩を目の前で見た上でも、現在の立ち位置は譲らない。

「川淵さんにツイッターで紹介してもらったように、選手権に出ないと興国を知ってもらえなかったわけだから。これで彼らが成長してくれれば」。こんな内野ワールドを慕い、集まった部員は約270人。後半ロスタイムに数分だけ出場した副主将のMF芝山和輝(3年)は「最高に楽しめたから悔いはない。次は大学で頑張ります」。令和になって、興国が新鮮な風を吹き込んだ。【横田和幸】

◆横田和幸(よこた・かずゆき)1968年(昭43)2月24日、大阪生まれ。91年日刊スポーツ入社。96年アトランタ五輪、98年サッカーW杯フランス大会など取材。広島、G大阪などJリーグを中心にスポーツ全般を担当。

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

全国高校サッカー大阪大会決勝 阪南大高対興国高 優勝し興国イレブンから胴上げされる内野智章監督(2019年11月16日撮影)
全国高校サッカー大阪大会決勝 阪南大高対興国高 優勝し興国イレブンから胴上げされる内野智章監督(2019年11月16日撮影)