変わらない笑顔が、謙虚にプレーしてきた18年をあらわしている。6月26日のヴィッセル神戸-浦和レッズ戦(ノエスタ)。浦和のGK西川周作(36)が歴代1位に並ぶ通算169完封を達成した。

大分トリニータのユース時代に西川を指導した吉坂圭介さん(48=現大分GKコーチ)は、初めて見た時の驚きを覚えている。「衝撃でしたよ。保護者が入ってるのかと思いました」。体の大きさはもちろん、中学3年生とは思えないキックの飛距離。固い土のグラウンドで西川が蹴ったボールは、プロの選手と遜色なく相手陣地へ飛んでいった。それ以上に吉坂さんがひかれたのは、にじみ出る貫禄。その日、西川はキックを思い切り空振りした。しかし、そんなミスなどなかったかのように、堂々と振る舞い続けていたという。

秀でた能力は、猛練習によってさらに伸ばされた。ユース時代は全体練習が終われば、寮の隣にあった体育館で毎日ボールを蹴った。「壁が壊れるから、絶対壁には蹴るなよって言ってたんです」。吉坂さんは何度謝りに行ったか、数え切れない。高校3年時からトップチームに帯同しても、変わらなかった日課。それがプロの原点だ。

シュートを止めまくり、自らFKでゴールを決めて“1人で勝った”試合もあった。強豪・国見高との練習試合では、相手に削られて片足を引きずりながらも最後までピッチに立ち続けた。大量失点で敗れると、涙を流した。決しておごることなく仲間のために戦う姿に、チームメートは自然と西川についていった。

プロとして活躍するようになっても、謙虚な姿勢が変わることはなかった。日本代表に選出される度に、西川は吉坂さんに必ず報告のメールを送っていた。10年ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会の最終メンバーから落選した時。吉坂さんが「次頑張れよ」と励ましのメールを送ると「切り替えて4年後目指します」と返信が来た。見事に14年ブラジル大会ではメンバー入り。有言実行してきた教え子を、誇りに思っている。

出会ってから約20年。西川の変わらないところを聞くと、吉坂さんは笑いながら、迷わず答えた。「笑顔じゃない?」。昨年のある試合の終盤。浦和のセットプレーの場面で、吉川さんは何げなく西川のほうを見た。ぱっと目が合うと、満面の笑みで手を振っていた。素直で屈託のない笑顔。これからも出来るだけ長く、グラウンドで見られるようにと願っている。169完封はまだまだ通過点だ。【浦和担当=磯綾乃】

大分時代のGK西川周作(2008年6月17日撮影)
大分時代のGK西川周作(2008年6月17日撮影)