<高校サッカー:滝川二5-3久御山>◇決勝◇10日◇東京・国立

 滝川二(兵庫)の優勝を告げる笛が鳴った瞬間、ピッチにいたMF杉元義紀は夢中でボールを追いかけていました。「自分のせいで負けたくない。チームに迷惑をかけたくない」と必死にプレーしていた杉元は、喜ぶチームメートの姿を見て少し経ってから「あぁ、勝ったんや」と胸をなでおろしました。

 86分にMF平田雄己と交代し最終ラインへ。ちょうど久御山(京都)の最後の猛攻のタイミングと重なります。表示されたロスタイムは5分。笛が鳴るまで全く気の抜けない時間が続きました。

 「ディフェンスとしては一番難しい時間帯の交代だった。だけど、チャンスをくれた監督には本当に感謝しています」と語った杉元。チーム発足直後の新人戦まではボランチでレギュラーとしてプレー。しかし昨年4月、遠征中の練習試合で「右ヒザが逆方向に曲がった」と全治6カ月のケガを負い手術。リハビリ生活を余儀なくされ、今でも「最近、ボルトが出てきちゃって…」という痛々しい傷跡が残ります。

 「医者から全治6カ月と伝えられたときは号泣しました」という杉元が公式戦に復帰したのは10月31日の選手権県予選準々決勝・神戸科学技術戦。それまでの半年間は1日でも早くピッチに戻りたいという一心で、ひたすらにリハビリを続ける毎日でした。夏のインターハイでチームは決勝に進出。準優勝したチームメートの姿に杉元の気持ちはあせる一方。試合の合間に仲間が海ではしゃぐ姿を見つめがら「何にも楽しくなかった」という沖縄で過ごした夏休み。敗れはしたものの、全国2位となったみんなの笑顔に「心から喜ぶことができなかった」と自分だけが置いていかれる気分でした。その後、3年生は推薦での大学進学が決まる大事な時期を迎えます。「進路を決める大事な時期に、何度インターハイ準優勝という実績が自分にあれば…と思ったかわかりません」とここでもまた苦しい気持ちを抱えていました。しかし、そのとき監督が練習会に参加したくても、ケガで何もできない杉元のために、手を差し伸べてくれたと言います。「監督のおかげで推薦で大学に入ることができた。本当に感謝しています」。

 その監督が、高校最後の試合で杉元にチャンスを与えました。ピッチに立てたのは10分。「ケガから復帰してレギュラーを取り返す」という目標には手は届きませんでしたが「悔いは残るけど、今は日本一になった瞬間にピッチに立っていられた11人でいられたからいいかなと思っています。大学に行って、今度は自分の手で日本一を取ります」という杉元の表情に、真夏の沖縄で苦しんでいた面影はもうはありませんでした。

 「今まで頑張ってきて本当に良かったと心から思っています。監督はケガをしている間も、そしてその後も僕のことをよく見ていてくれた。人生で今日が一番うれしい」。心の底から出た言葉を残して、杉元はスタジアムの外で待つ、これまで共に3年間を過ごしたチームメートたちの元へ走り出しました。(サッカーai編集部

 阿部菜美子)