DF鮫島彩(27)は、目をむいた。代表合宿を控えた5月のある日、自宅を襲撃された。仲のいい伊賀FW松長佳恵(29)らのサプライズ激励。玄関口に立った3人は、鮫島が好きなアニメ「ドラゴンボールZ」のキャラクター「魔人ブウ」のTシャツを着ていた。同じTシャツを渡されて「これを着て、試合で点をとったら、ユニホームを脱げ」と“むちゃぶり”された。「皆で応援してるで、と言いたくて」と松長。三重県伊賀市から兵庫県神戸市まで車で往復3時間。そのひと言を伝えたくて午前練習後にハンドルを握った。

 11年3月11日、東日本大震災で鮫島、松長らが所属した「東京電力マリーゼ」が無期限休部。ばらばらになった当時の仲間は今も年に数度集まる。ランニングがやたら厳しかったこと、誕生日が6月16日の鮫島と同18日の松長は、間の17日に皆に祝ってもらったこと、プレゼントを交換したこと、そして突然チームがなくなったこと。「今でもたまに話すんです。やっぱり楽しかった」と松長。普段は静かな鮫島もオフに選手寮の目の前にあった福島の海で泳ぐ時ははしゃいだ。

 鮫島は昨年2月、右膝を負傷。発表されていた米国移籍が消滅し、所属先のないままリハビリした。松長はジョークで笑わせ、「しんどい」と言われればただ黙って話を聞いた。「どん底を経験してるんじゃないかな。苦しんでいるのはわかったけど、私はサッカーをやめてほしくなくて」。マリーゼ時代の仲間に支えられて、鮫島が2度目のW杯に向かう。【益田一弘】