チーム最年少の22歳、FW岩渕真奈(Bミュンヘン)が、W杯初ゴールで日本を4強に導いた。後半27分から途中出場。0-0のまま延長突入が迫った同42分、CKからの混戦からDF岩清水梓(28)のパスをスライディングしながら右足で決めた。16歳で日本代表デビューした逸材が、数々のケガなどを乗り越え、大舞台で花開いた。

 「リトル・マナ」の笑顔がはじけた。大舞台でのW杯初得点は値千金の決勝ゴール。岩渕は「90分間みんなが頑張ってくれた中で、おいしいところだけ、いただきました」。ペロっと舌を出し、照れ笑いした。

 炎天下の人工芝。気温32度。敵も味方も体が動かなくなってきた後半27分、佐々木監督から「お前が(試合を)決めてこい」と背中を押されてピッチに出た。同42分の左CK。混戦の中、こぼれ球に右足を伸ばしたDF岩清水からのパスが来た。「わあ、来たと思った」。テープがぐるぐる巻きの利き足で押し込んだ。「うわあ、入っちゃった~って感じ。あとは守ってくれって」。丸い目を大きく見開いて振り返った。

 12年11月に移籍したドイツでパワーアップした。155センチと小柄なため、対人プレーに弱さがあったが、筋トレなどで下半身は「女の子としては太くて嫌」と表現するまで大きくなった。日テレ時代にはいていたパンツはもう入らない。ホッフェンハイム在籍時は、男子チームにいたG大阪FW宇佐美と約半年間、共同生活。妻蘭さんには食生活から、悩み相談まで面倒をみてもらった。宇佐美とはサッカー談議に花が咲き、FW論をぶつけあった。

 この日、朝起きると、宇佐美が日本時間27日のJ1山形戦でハットトリックを達成したと知った。3得点の映像を急いでチェックした。「右足でずらして、左足で蹴るのは宇佐美の1点目。自分もこれ決めたら完璧、一緒だと思ったんですけどブロックされちゃった」。得点につながったCKを奪ったシュートは宇佐美の得点シーンが手本だった。「宇佐美が取ったら私もってなる。今日の得点も宇佐美様様です」。男女は違えど同世代のFWと切磋琢磨(せっさたくま)している。

 16歳で代表デビューし、澤も成長を気にかけてきた近未来の日本のエース。ケガに泣かされ、代表には定着できなかった。今大会前も右膝を痛めて一時は諦めかけたが、懸命なリハビリで間に合った。「まだ、なでしこでゴールが少ない(通算4点目)んですけど、また大事なところで決められる選手になりたい」。イングランド戦も、切り札の岩渕がぶっちぎる。【鎌田直秀】

<岩渕真奈(いわぶち・まな)アラカルト>

 ◆生まれ 1993年(平5)3月18日、東京都生まれ。家族は両親とJ3琉球MFの兄良太。05年に日テレ・メニーナ入団。07年にベレーザと2重登録で同年10月21日浦和戦でなでしこリーグデビュー。12年11月ドイツ2部ホッフェンハイムに移籍し1部昇格。14年Bミュンヘン移籍。155センチ、53キロ。

 ◆主なタイトル 8強に終わった08年U-17女子W杯ニュージーランド大会でMVPのゴールデンボール賞。09年U-19アジア選手権(中国)でMVPと得点王。08、09年にはアジア年間最優秀女子ユース賞。14-15シーズンではブンデスリーガ1部で優勝。

 ◆日本代表 10年2月6日、東アジア選手権中国戦(味スタ)で16歳デビュー。同11日の同大会台湾戦(国立)で初先発2得点。14年3月7日、アルガルベ杯デンマーク戦で3点目。今回は4点目。

 ◆苦闘 12年1月に右足小指の疲労骨折で手術。ロンドン五輪前の遠征や試合を辞退。そのロンドン五輪決勝では終了間際に米国GKソロと1対1となる決定機も決められず、大泣きした。今年2月には右膝じん帯を損傷し、リーグ終盤戦を欠場。5月下旬の代表合宿で再び右膝を痛めた。

 ◆好きな食べ物 チョコレート、から揚げ。得意料理はチャーハン。

 ◆愛称 ぶっち、リトル・マナ。