なでしこジャパンMF川澄奈穂美(29=INAC神戸)が、決勝点となったイングランド代表DFローラ・バセット(31)のオウンゴール(O・G)を誘発した。1-1の後半ロスタイムに絶妙な右クロスで試合を決めた。11年W杯ドイツ大会準決勝スウェーデン戦では大会初先発で2得点したように、再び決勝進出をアシスト。「準決勝女」の本領を発揮した。

 「準決勝の女神」が舞い降りた。3分のロスタイムも残りわずか。DF熊谷が奪取したボールを、川澄が右サイドで受けると「相手のサイドバックが下がっていったので、クロスを上げようと思った」。グラウンダーのアーリークロスで、ゴール前に走り込んだFW大儀見、岩渕を狙った。「DFラインとGKの間に蹴ればCKかなと。得点にもなるかもと」。決定機に必死に右足を伸ばしてクリアしたDFバセットの足に当たり方向が変わった。

 鋭くバーをたたいたボールは、ゴール内ではずみ、ピッチに戻ってきた。プレーは続行されかけたが、女子W杯で初採用されたゴールライン・テクノロジー「ホークアイ」で得点が認められた。主審が得点を宣告すると、ピッチ内外で歓喜の輪が広がった。ピンクの髪留めをした川澄は「本当は自分が得点を決めて、もうちょっとすんなりといきたかったですけど、W杯はそんな簡単に勝てるところじゃない。そんな中でも全員で結果を出せたのがうれしい」と笑った。

 前半33分にMF宮間のPKで先制したものの、同40分にPKで追いつかれた。後半も終始、相手のペース。自分たちのリズムがつかめず、控え選手が延長戦に備えて氷を用意していたロスタイムに決勝点が生まれた。

 川澄は前回のW杯準決勝で2得点し「シンデレラ」と呼ばれた。今大会は両膝痛も抱え、先発を外れることもあった。だが常に準備してきた結果、再び決勝進出を決めるヒロインとなった。「こじつけじゃなく、スカッと決めていたら『準決勝の女』って感じだったけれど、今日の感じではそうも言えないのかな…。でもホッとしています」。

 4年前の決勝を「すごい決勝戦だなと舞い上がっていた。初めて海外旅行に行った小学生のような感じ」と表現した。だが今は違う。「経験があるので慌てずに。五輪が終わってから女王として君臨してきた米国相手に、もう1度世界をとるチャンスがあるので、とりにいく」。成長した姿を示すだけでなく「決勝の女」に生まれ変わる。【鎌田直秀】

 ◆W杯史上初の後半ロスタイム決勝O・G イングランドDFバセットの後半ロスタイムのO・Gが日本の決勝点となった。O・Gは今大会5点目で通算16点目。後半ロスタイムに記録されたのは女子W杯史上初めて。男子W杯は通算35点で、後半ロスタイムに決まったケースは過去に1度。

 14年ブラジル大会の決勝トーナメント1回戦、フランス-ナイジェリア戦で、後半47分にナイジェリアのDFヨボが記録した。ただ、このときはフランスが1-0リードの状況で、そのまま2-0となり終了。今回のように後半ロスタイムのO・Gがそのまま決勝点となったのは、男女通じてW杯史上初めてだ。

 なお、イングランドは54年の男子W杯スイス大会1次リーグのベルギー戦で、延長前半4分(94分)に3-4からディキンソンがO・Gを記録して同点となり引き分けたことがある。