得点力不足解消の切り札は何とPK…。日本サッカー協会は27日、東京・JFAハウスで9月のW杯ロシア大会アジア2次予選2試合(9月3日・カンボジア戦、同8日・アフガニスタン戦)を戦う日本代表メンバー23人を発表した。6月のシンガポールとの予選初戦は0-0の引き分け。公式戦ここ4戦勝ちなしのバヒド・ハリルホジッチ監督(63)は会見でまさかの一手を推奨した。本気も本気で「(PKをもらう)発想がないのかもしれない。教えていかないと」と力説した。

 打てども打てども入らなかった6月のシンガポール戦がトラウマになっているのだろうか。日本(FIFAランク56位)をけん引するハリルホジッチ監督が格下相手に、まさかの“必勝法”を唱えた。PKだ。対アジア勢の公式戦4戦勝ちなし。「私の人生で4試合勝ちがないのは初めて。点を取らなければならない」と策を練った。カンボジア(同180位)アフガニスタン(同134位)との予選2試合を見据え「かなりの準備をしています」と強調。ミドルシュートの多用とともに、こう言った。

 「選手に学んでほしいことがある。5カ月日本にいてA代表で4試合、東アジア杯で3試合戦ったが、まだ1度もPKをもらっていない。そのような文化がないのかもしれないが…。何もずる賢くやり続けろというわけではない。これはフットボールの中のインテリジェンス(知性)だ」

 力説したのは最もゴールの決まる可能性が高いPK狙い。一般的に成功率は約8割といわれている。手っ取り早く得点するためにこれ以上の状況はない。日本の、いやサッカー界の永遠の課題である得点力不足に、予想もしなかった部分からのアプローチだ。

 ただ、これは奥の手。ある意味、禁じ手と受け取られてもおかしくない。多少のファウルを受けても倒れないことが美しく、正しいとされ、そう指導されることが多い。ゴール前で主審を欺くようなプレーにはシミュレーションとして笛を吹かれ、罰せられるルールもある。それでも、惨敗した東アジア杯の開催地・中国で「リアリスト(現実主義者)」との単語も使った指揮官は、こう続けた。

 「私は17歳の時からFWとしてプレーし人生で多くの点を取った。何度もPKを自分で取りに行った。ボールを見る代わりに相手を見て、相手の前に入る。押されたらPKになる。そうやって点を取って勝たせたこともある。それは全員がやっていること。日本代表のFWにも教えてやりたい」

 王国ブラジルには「マリーシア」というずる賢いプレーを認めるキーワードもある。ひた向きで、実直な取り組みが美徳とされる日本では、理解し難い主張かもしれない。就任から約半年。「日本では少しでも違うことをやると、それは違うんじゃないかということになる」と言う。ある程度この国の文化を理解してきた中、日本サッカーだけでなく日本文化にも一石を投じるような発言。是非はともかく、今はただ、攻撃がPK頼みにならないことを祈るばかりだ。【八反誠】

 ◆PKデータメモ 02年のW杯日韓大会で指揮したトルシエ監督以降の日本代表はPKで通算25ゴール。総得点452点に占めるPKゴールの割合は5・5%となる。比較対象として02年大会以降のW杯を見ると、総得点624点のうちPKゴールは47点で同割合は7・5%。日本代表は「世界基準」と比較して2ポイント下回っていることになる。一方、今季のJ1リーグ戦は総得点597点のうちPKは42点、同割合は7・0%とW杯の数値と大差はない。ハリルホジッチ監督就任後の日本代表は7試合で1度もPKを獲得していないが、同監督が14年W杯ブラジル大会で率いたアルジェリア代表は、4試合7得点のうちPKで1点を挙げた。