バヒド・ハリルホジッチ監督(63)率いる日本代表が、W杯アジア2次予選初勝利を挙げた。FW本田圭佑(29)の先制弾などで、カンボジアに勝った。6月の同予選初戦のシンガポール戦では、ホームで屈辱のスコアレスドローに、8月の東アジア杯でも未勝利だった。FIFAランク180位と格下相手で、決定力不足などの課題も露呈したが、久々の勝利を重んじる指揮官からは「復讐(ふくしゅう)を果たした」という言葉も飛び出した。

 屈辱の夏に、ひとまずピリオドを打った。初勝利へのカウントダウンのように、5万人が手拍子を打ち鳴らす埼玉スタジアム。夜空に試合終了の笛が響くと、ベンチ前のハリルホジッチ監督はゆっくりと、小さく拍手をした。「選手には勝利を要求した。そして勝った。今はとにかく、おめでとうと言いたい」。

 その後の会見。指揮官は思いを吐露した。

 ハリルホジッチ監督 私は今回の試合まで、2カ月も待たなければならなかった。今年の夏は、シンガポール戦の引き分けを引きずって生活していた。その復讐、やり返しだという気持ちがあった。我々自身のリベンジ、そしてチームに尽くしてくれるスタッフ、関係者、そしてサポーターのためのリベンジだった。だから勝つしかなかった。

 世界を目指す日本代表が、カンボジアを下しただけで、ハリルホジッチ監督は留飲を下げた。シンガポール戦の屈辱があったにせよ、世界を知る名将はなりふり構わず、リベンジの言葉に力を込めた。

 素直には喜べない内容だった。シンガポール戦を振り返り、守りを固める相手を崩す「6、7つのソリューション」を選手に提示。その中の1つ、ミドルシュートで2点を挙げた。しかし、実際にはシンガポール戦のミドルシュート率39%から、同41%と変わらず。そしてその他のソリューション、サイド攻撃はクロスこそ多かったが、点にはつながらなかった。

 MF香川らが決定機を外し続けた。同監督は「10~15回は決定機があったが、選手たちは慌ててしまった。センタリングに対しては、ゴール前のゾーンを攻撃の選手でどう埋めるか、戦略的にやらないと。選手が同じラインで入っていってはいけない」と反省した。

 それでも「今日は勝利以外の選択肢がなかった。選手にはそれが重圧だった。だから慌てた。不確実さがあった。もっと点を取って勝つのは理想。でも今夜はネガティブにはなれない」と選手をかばった。そして「7秒で相手からボールを奪いなさいと言ったが、3秒で奪っていた」と勝利への執念をたたえた。

 昨年のブラジルW杯ではアルジェリアを初の16強に導いた。「世界のサッカーのことは私が分かっている」と言い切り、選手たちにはピッチ上から私生活に至るまで、世界と戦うためにと厳しい要求をしてきた。

 一方で、初のアジア予選で味わった屈辱も、忘れることはできなかった。この試合だけは、提唱し続けてきた「世界に通じる内容」よりも、拍子抜けするほど純粋に、結果を求めた。感傷に浸るのはこれで終わり。結果と内容を共に求められる現実に、再び向き合う。【塩畑大輔】