バヒド・ハリルホジッチ監督(63)率いる日本代表が、アウェーで貴重な勝ち点3を加えた。中立地オマーンで行われたアウェーのシリア戦を、FW本田圭佑(29)の先制PK弾などで、勝った。狙いとする縦への速攻が形にならず、苦しい戦いとなったが、指揮官が以前から選手たちに求めていた「PK獲得を狙いにいけ」という教えが、苦境でチームに先制点をもたらした。

 ハリルの“処方箋”が、苦境のチームを救った。後半9分。ハリルホジッチ監督はペナルティーエリア内でFW岡崎が倒されると、ベンチから真っ先に飛び出した。純白のワイシャツが汗で体に張り付くがお構いなし。両手を掲げPKを要求。数秒の間があいてから主審は笛を吹き、PKを指示した。まるで指揮官の気迫に圧倒されたようだった。

 FW本田が冷静に決め、前半からのこう着状態は打開された。岡崎、そして途中から投入したFW宇佐美が続き、セーフティーリードを確保。「ロジカルな勝利だった。修正もうまくいった」。終盤の相手の猛攻も、心理的な余裕を持って受け止めた。

 実はハリル体制初のPK獲得。指揮官は笑いながら「10試合かけて、ようやく1回取れたようなPKです」と切り出した。「ただ我々はずっと、ペナルティーエリア内に入ったらPKを狙いなさいと言い続けてきた。ようやく取れました」と何度もうなずいた。

 就任から「世界と互角に戦うため」と、縦に速い展開のサッカーを志向。しかし、守りを固めるアジア勢相手に奏功せず、苦戦が続いていた。6月のW杯予選シンガポール戦では、ホームでまさかの屈辱的な引き分け。8月の東アジア杯も3戦未勝利だった。

 どうすれば得点が取れるのか。9月のW杯予選2試合を前に問われ、戦術面の熟成の必要性を強調するとともに「理解できないことがある。まだ1回もPKを獲得できていないことだ」と言った。

 直後の代表合宿から、選手たちにPKの獲得の仕方を説いた。「時にはボールではなく、相手の動きだけを見ることも必要だ」。フランスリーグ得点王2回の元ストライカーは、自ら手本も示した。

 そこから約2カ月。シリア戦はやはり縦への速い攻撃が形にならず、序盤から相手を攻めあぐねた。夕暮れ空に、ハリルホジッチ監督の怒声が響いた。「ホタル! ホタル!」。中立地開催で観客もまばらなシーブスポーツスタジアムだけに、スタンドまで内容は丸聞こえだったが、気にする余裕はなかった。

 マッチコミッショナーへの「ローラーをかけてピッチを硬く」「芝を短く」といった事前の要請も、まったく受け入れられなかった。球足の遅さ、バウンドの不規則さは、縦への速い展開をさらに妨げた。

 そんな苦境で、体制初のPKが、チームを救った。「決定力不足解消のための策が、よりによってPK獲得狙いとは」という批判めいた見方もあったが、かまわず指導を続けてきた。そして事実、ハリルの処方箋はチームに勝ち点3をもたらした。