こだわりのパスが、戦局を一変させた。後半から投入されたMF柏木陽介(27)は同1分、中盤中央から得意の左足でロングパスを送った。鋭い弾道ではない。しかし、カンボジア守備陣をあざ笑うように、誰にも妨げられることなく前線へ達した。FW岡崎のヘッドの最高到達点を正確に捉え、落としたボールに詰めたMF香川のPK奪取につなげた。

 「相手の動きを読んで、裏をかいて、届きそうで届かないコース、高さを通す。それをいつも考えてる」。そんな信条を体現するパスだった。岡崎のPKは失敗。しかし前半の悪い流れを、一瞬で払拭(ふっしょく)した。

 6分には右FKで、岡崎と競った相手DFのオウンゴールを誘った。その後も中盤の底から、相手の最終ライン裏に正確なパスを送り続け、FW本田らの決定機を演出した。

 「今回は貢献できたと思う」と柏木。12年に代表から離れた直後には、心身のバランスを欠き、モチベーションを完全に失った時期もあった。「今はちゃうよ。W杯も今回が最後のチャンスやと思うし」。代表復帰した10月の中東遠征中の練習では控え組でのプレーが続いたが、それでも終始ハイテンションだった。

 そして「これよ。この感じがほしかった。ゼロからチームに生き残る。久々の感覚。新鮮や。こういう気持ちになりたいから、ここに来たかったんよ」と目を輝かせていた。後半36分には、強烈なミドル弾でGKに横っ跳びのセーブも強いた。ハリルホジッチ監督も「左足の精度。プレーのアイデア。技術。他になかなかない長所を持つ選手」と高く評価する司令塔が、代表定着の足掛かりを得た。