日本サッカー協会の副会長に選定された元日本代表監督の岡田武史氏(59=四国リーグFC今治オーナー)が1日、東京・本郷のJFAハウスで会見した。田嶋幸三新会長(58)に請われ、先月27日付で就任。14年秋から日本の5部相当クラブを経営して気付かされたという“お客さま目線”を、大組織となり“上から目線”と指摘されることもある日本協会に「浸透させたい」と所信表明した。非常勤として、当面は月1回ずつ常務理事会と理事会に出て改革を直言していく。

 岡ちゃん副会長が、日本協会を腰の低い組織に再生する。就任後、JFAハウスに“初登庁”。約32分間の会見では具体的な業務について「全般的に意見する」と慎重だったが「Jリーグ発足から二十余年、マンネリもあると思う。つくった人の心に戻って見直したい」と理念から切り込んだ。

 岡田副会長 いろんな意見を言ってほしいということで引き受けた。ほかのスポーツでも同じ雰囲気を感じるが、今は協会が「サッカーをやらせてやってる」というイメージ。多くのサッカーを愛する人がいて初めて協会がある。その視点から申し上げていきたい。

 日本協会を離れて気付かされたことだった。16強入りした10年のW杯南アフリカ大会で勇退。中国挑戦をへて14年11月にFC今治の経営にかかわった過程で、心が洗われた。批判されることが常だった代表監督時代は「お客さまに『心からありがとう』と思ったことはない。いつも『コノヤロー』と思っていた」男が、昨年4月、FC今治のホーム開幕戦に過去最高の約900人が集まって、変わった。5部相当の地域リーグでは異例の光景に「初めて『来てくださってありがとう』と感激した。利害関係者を全て巻き込んで初めてフットボール。59歳にして気付いた」と打ち明けた。

 その思いを、くさびとして協会に打ち込む。会見前に田嶋会長と会談し「お客さまから要望や不満を受けて、問題は解決するもの。相手がどう思うか、という視点が必要」と進言。先月承認された日本協会の15年度決算では、収益が約188億円あり「これだけのお金を動かせる組織になったが、心が薄れてきている感覚がある」。時に「高圧的」「上から」とも言われる組織の目線を下げさせる。

 あぐらをかける状況でもない。先月24日のW杯2次予選アフガニスタン戦は、約4年ぶりに前売り券が完売しなかった。危機感を念頭に「職員みんなが相手の側に立った目線を持たないと。どう協会スタッフに浸透させるか戦略を練りたい」。多様性、人材の積極活用を意味する「ダイバーシティ」と、革新を表す「イノベーション」。何度も口にしては、眼鏡の奥の目を光らせた。【木下淳】

 ◆岡田武史(おかだ・たけし)1956年(昭31)8月25日、香川県生まれ。大阪・天王寺高-早大-古河電工(現J2千葉)。DFとして日本代表で国際Aマッチ24試合1得点。90年に引退。94年11月に日本代表コーチに就任し、97年10月に監督昇格。98年W杯フランス大会を指揮した(1次リーグ敗退)。札幌、横浜の監督を経て07年11月に日本代表監督に再登板。10年W杯南アフリカ大会で16強入り。11年末に中国・杭州緑城の監督に就き、13年に退任。14年11月にFC今治オーナーに。