日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督(63)が、被災地にささげるW杯出場を誓った。5日に日本協会の田嶋会長とともに地震の被害を受けた熊本を訪れ、避難所などを訪問。特に被害が深刻な益城町では、予定を変更して1時間近く、家屋が倒壊して変わり果てた街並みを見て回った。自らも内戦のため自宅を失った経験を持つだけに「立ち上がらねば」と決意。子供たちらを前に「みなさんのためにW杯予選を突破する」と宣言した。

 5日夕刻。益城町の避難所、熊本空港ホテルエミナース。ハリルホジッチ監督は被災地での1日を振り返り、こう語った。

 「悲しい限り。被害が大きかった。人々が悪夢を見たんだなと」

 子供たちと一緒にボールを蹴った、甲佐町からの道すがら。益城町体育館の近辺で、熊本地震で最も深刻な被害を受けた地域を目にした。路面が大きくうねり、家屋がことごとく倒壊している。ハリルホジッチ監督は「見て回りたい」と願い、エミナースに向かっていた乗用車のハンドルを切らせた。

 「益城町を始め、宇城、宇土でも、甚大な被害を見ました。かつては私の家も同じ状態でした。だから被害を見た時に、戦争の状況を思い起こした」

 ユーゴ内戦。ボスニア・ヘルツェゴビナの自宅近くで、ハリルホジッチ監督は昨日までの「ご近所さん」に銃を向けられた。自衛のための銃がポケットで暴発し、大けがをして病院に担ぎ込まれた。戻ってみると、すでに自宅は元の姿を保ってはいなかった。

 「そのような悲しい思い出がよみがえったので、私は立ち上がらないといけないと思った。戦いは続く。人生も続く。まずは若い世代を勇気づけないと、日本は復活しない」

 折しもこの日は、5月5日のこどもの日だった。ジュニア層を育てる、JFAアカデミー熊本宇城への訪問を皮切りに、各地で子供たちと触れ合った。「熊本のみなさんのために、我々は必ずW杯予選を突破します」。そこまで言った。

 「日本代表の選手たちも、悲しみを持っています。彼らは試合中も、熊本のことを忘れずプレーをする。私も今回、被災地で見聞きしたことを、必ず次の合宿で選手に伝える。まずは五輪代表が試合をするが、彼らもA代表も、熊本を忘れず戦わないといけない」

 被災地訪問はゴールではない。長く続く支援の第1歩を、格別の思いでしっかりと踏み出した。【塩畑大輔】