プレーバック日刊スポーツ! 過去の6月1日付紙面を振り返ります。2006年の1面(東京版)はサッカー日本代表高原直泰選手がドイツ代表との親善試合で2ゴールの活躍でした。

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<親善試合:ドイツ2-2日本>◇2006年5月30日(日本時間31日)◇ドイツ・レバークーゼン

 サッカーW杯ドイツ大会に臨む日本代表がドイツ代表と親善試合を行い、2-2で引き分けた。0-0で迎えた後半12分、相手CKからカウンターでFW高原直泰(26)が先制ゴール。同20分にも右サイド駒野のパスを受け、高原が追加点を挙げた。しかし、同31、35分にセットプレーから失点し、惜しくも勝利を逃した。ドイツ入り後の第1戦を終えた日本代表は、6月4日にデュッセルドルフでマルタ代表とW杯開幕前最後の親善試合を行う。

 「穴」が空く瞬間を、高原は狙っていた。前半からむやみに上がっていた相手最終ライン。後半12分、ドイツ守備網の裏にある広大なスペースを突いた。中村から柳沢にパスが出されると迷わず、裏へ走り出す。ダイレクトパスを受けドリブルで独走。焦りはない。「シュートを打つ前にGKが滑って、こけたのが見えた」。欧州屈指の守護神レーマンの反応を見切り、牙城を崩す先制弾を決めた。

 2点目は個人能力の高さで奪った。同20分。ペナルティーエリア右45度でボールを受けると、時計回りに急ターン。さらに相手マーク2人の密集地帯を細かい切り返しで抜け出し、右足でゴールにたたき込んだ。興奮のあまり、何度も右拳を振り下ろす。スタンドを包むどよめきが心地よかった。「ドイツは体が大きいけど、横の動きとかボールのないところへの動きには反応が遅れる」。4シーズン、ブンデスリーガでもまれ、相手の習性は熟知していた。

 肺血栓塞栓(そくせん)症(通称エコノミー症候群)で絶たれた02年W杯への道。06年W杯へ心血を注ぐため開催国に渡ったが、決して平たんな道ではなかった。04年に再び同じ病魔に襲われた。今季はベンチ要員の日々が続き、リーグ戦もわずか1得点。ハーフタイムのアップにすら呼ばれない屈辱の時もあった。

 だが歩んできた道に後悔はない。「前回のことを引きずっているとか言ったことは1度もない」。苦い過去にはとらわれず、準備だけを整えた。昨季終盤に左太もも裏肉離れを負い、W杯最終予選を棒に振った苦い経験を忘れなかった。4月中旬には、日本からトレーナーをハンブルクに呼び寄せ約1週間、毎日肉体を手入れした。日本からドイツへ出発する前日には、髪形をトサカ部分だけが金髪のソフトモヒカンに変身。鮮烈な活躍を残すべく心身ともに準備を整えた。

 今季の欧州CLで、764分間連続無失点記録を樹立したGKレーマンを射抜いての2ゴール。ドイツメディアから、まか不思議と言わんばかりに要因を聞かれても、敢然と言い返した。「先発で出場するチャンスが少なかったから」。その得点能力と誇りを高く評価し、獲得を実現させたフランクフルトのウルフハーゲン副会長も視察に訪れていた。ドイツを震かんさせる2得点で報いた。

 柳沢とのコンビも、さえ渡った。動き出しが絡み合い何度もチャンスをつくった。「前線の2人で相手の裏を突けた。こういうコンビを続けたい」。ジーコジャパン最多得点者の久保が落選したが、高原-柳沢コンビが機能すれば補える力がある。その手応えが言葉に表れた。「準決勝に行く力はある。まずはオーストラリア戦に勝つこと」。ドイツの地が、高原に力を与える。

 ◆守備データ 前回のドイツ戦同様、20本以上のシュートを浴びた。ただし注目すべき点は、今回の2失点はともにセットプレーによるもの。被シュートまでの経緯を探ると、ドイツのボール回しなどの攻撃リズムは前回とほぼ同じ。つまり「流れ」には、十分に対応できていたと言える。ただし裏を返せば、圧倒的な身体差のある相手には、依然としてセットプレー時の対応が課題となっている。

※記録と表記は当時のもの