まさかの黒星発進となった日本のW杯アジア最終予選。1日の初戦、UAE戦(埼玉スタジアム)では、カタール人のアブドゥルラフマン・アルジャシム主審の判定にも苦しんだ。なぜ、UAE戦を隣国カタールのレフェリーが? 「中東の笛」って? アジアサッカー連盟(AFC)で審判部長も務めた、日本協会理事の小川佳実審判委員長(57)に聞いた。

 -W杯アジア最終予選の審判団は、誰がどのように決めているのですか

 「国際サッカー連盟(FIFA)が指名します。ただ、アジアサッカー連盟(AFC)のレフェリーが対象となるので、もちろんAFCと連携を取りながら指名、派遣を決めています」

 -最終予選を裁く国際審判員は何人いるのですか

 「アジアの中で国際主審が200人、国際副審は380人ほどいます。その中で現在AFCの大きな大会にかかわる方は、国際主審200人のうち80人。国際副審は140人程度です」

 -厳選されたメンバーですね

 「AFCでは04年から審判員のエリート・システムを開始し、現在では加盟する47の国と地域を定期的な調査から、教育プログラム、リーグの組織などをもとに、カテゴリー1から7までに分けています。日本は約10カ国の最上位カテゴリーの1に属しており、国際主審は7人、国際副審は9人が認定されています。認定レフェリーはカテゴリーごとに減っていき最下位カテゴリー7の国は国際主審が1人、副審が2人しかいません。ただ、カテゴリー1でなければ、最終予選で笛を吹けないわけではありません」

 -UAE戦を隣国カタールの審判員が裁く。公正な審判の常識から考えた場合、どうですか

 「UAEの試合をカタールの審判が裁くことは、決しておかしなことではないと思います。ただ、心情的な部分で、納得できない人がいることも理解はできます。私がAFCにいる時、審判の皆さんには『地域性は関係ない、アジアという1つの組織で、皆さんを信頼して割り当てる』。こう伝えていました。彼らも当然、状況は分かっているはずです」

 -UAE戦で注目された主審が、再び日本戦を裁く可能性はありますか

 「経験から言わせてもらうと、今後、同じW杯最終予選の日本戦の残り8試合に、9月のUAE戦やタイ戦を裁いた審判員がもう1度割り当てられることは基本的にはないと思います。どこの国の審判員かではなく、大切なのはレフェリングそのもの、正しい笛が吹ける技術的な裏付けです」

 -浅野選手のシュートがノーゴールと判定されたことで、追加副審の存在がクローズアップされました

 「AFCも追加副審は検討しています。日本でも、すでにJ3でテストしていて、10月のルヴァン杯(準決勝以降)、Jリーグ・チャンピオンシップ、天皇杯(準決勝以降)で試験的に導入されます」

 -最後に「中東の笛」という表現について、どうお考えですか

 「私はサッカーにおいて『中東の笛』はないと言っていますし、信じています。9年間、AFCで審判員の真摯(しんし)な取り組みを見てきましたから。もちろん、試合は生き物ですし、審判はミスした時には批判されるものです。審判はそういう立場で笛を吹いています。私は、彼らに厳しい要求をしつつ、どれだけ仕事に専念できる環境を作ってあげられるか、それが仕事だと思っています」【聞き手=八反誠】

 ◆小川佳実(おがわ・よしみ)1959年(昭34)6月23日、静岡・焼津市生まれ。静岡・藤枝東-筑波大ではサッカー部。同大卒業後、高校教諭として静岡県内でサッカー部を指導しながら審判として活躍。97年に日本協会入りし、01年から審判部長。06年にAFCに出向し審判部長を務め、改革を進める。16年4月、日本協会に戻り理事、審判委員長の要職にある。Jリーグ、ナビスコ杯決勝、天皇杯、ゼロックス杯や国際主審としてW杯アジア1次予選アジア大会などで主審を務めた。

 ◆UAE戦の判定 アルジャシム主審が裁いた。昨年U-17W杯チリ大会の3位決定戦ベルギー-メキシコ戦の主審も務め、世代別の世界大会を経験済みの人物。ただ、日本にとって不可解な判定があった。前半18分にDF吉田が相手FWを倒したとされ警告を受け、そのFKを直接決められたが、吉田はほとんど触れていないようにも見える。後半32分にはFW浅野のシュートがノーゴールの判定。映像ではゴールラインを完全に越えているように見えた。