日本代表バヒド・ハリルホジッチ監督(64)が、引き分け以下なら解任の可能性もあった瀬戸際の一戦で、劇的勝利をつかんだ。最終予選は、9月のUAEとの初戦でまさかの黒星発進。いきなりつまずいたが、そこから2連勝。ホーム初勝利で3戦を終え勝ち点6(2勝1敗)とした。11日には、敵地で同組最強と目されるオーストラリアと対戦する。

 6分の長いロスタイムに、ドラマが起きた。途中出場のMF山口が決めた。ハリルホジッチ監督は両手を突き上げ、何度もガッツポーズ。争うようにベンチから選手が飛び出してきた。熱狂の輪に触れ、指揮官も我を忘れた。すでに岡崎、本田の両FWを交代させていた。そして先発落ちしたMF香川もDF長友もピッチにいない。このままでは負けに等しいドロー。瀬戸際で地をはうようなシュートが決まった。

 「選手が強い気持ち、勇気を持って戦い勝った。おめでとうと言いたい。埼玉の観客の皆さんにもお礼を。本当に価値ある勝利。強い気持ちを見せろと言ってきた。難しい試合だったが、勝利に値するものを見せてくれた。今日は山口にも長谷部にも、冗談で『点を取ったらシャンパンをごちそうする』と言っていた。彼らもチームも、今日はシャンパンを2杯は飲める働きぶりだった」

 試合開始直前には、観客に拍手を求めた。前代未聞のあおりでスタジアムの雰囲気作りから始めた。これが効いたのか、ツキも呼び込む。前半のFW原口の先制シーン。直前の本田からMF清武へのパスは明らかにオフサイドに見えた。UAE戦ではFW浅野のシュートがノーゴールと判定されて負けた。同じ埼玉で今度は判定にも救われた。

 ロスタイム突入時には、引き分け濃厚に思えた。「解任」。そんな2文字が現実となる可能性があった。しかし、劇的な、奇跡的な勝利で首の皮一枚つながった。日本協会の田嶋会長は「このムードを次の試合にいい形でつなげられるように。(試合後の)監督は元気だった。勝つことが一番の薬でしょうから、彼にとって」と言った。

 内容はともかく、最終予選は勝てばいい。ただの勝ち点3ではなさそうだ。「このような勝ち方は今までなかった。これがW杯予選だ。勝ち点3だけではなく、メンタルの強さ、勇気、そういったものも与えてくれた」。得点直後のスタジアムの雰囲気は、まるでW杯出場を決めたような熱気だった。この勝ち点3を前半戦のヤマ場、オーストラリア戦につなげることができるだろうか。つなげるしか、ない。【八反誠】