合言葉は「世界基準」と「育成日本復活」。昨年、この2つを掲げて日本サッカー協会初の会長選を制し、第14代のトップに就任した田嶋幸三会長(59)に聞く元日インタビュー。17年は、日本代表が目指す18年W杯ロシア大会の出場国が決まり、U-20(20歳以下)W杯とU-17W杯で、男子2つのカテゴリーが世界の舞台に立つ。国際サッカー連盟(FIFA)理事も務める田嶋会長が目指すべき方向性を大いに語った。

 -日本協会初の選挙を制し、会長となられた16年を振り返っていただけますか

 3月27日に就任しスタートを切りました。まず、U-16、U-19の男子については、どんなことをしてでも世界大会に行く。この年代のうちに世界を知っておくことで伸びしろが変わる、ずっとそう言い続けてきたので(17年W杯に)出なきゃいけないという前提でやりました。

 予算化されていなかった海外遠征や合宿を、できうる範囲ですべてやりました。監督たち(U-16の森山監督、U-19は内山監督)も同じ意識を持ち、しっかりと出場権を取ってくれました。プレッシャーをかけて申し訳なかったなと思っています(苦笑い)。

 -選挙のマニフェストにも掲げられた「育成日本復活」。男子は幸先の良いスタートになりました

 女子もU-17W杯で準優勝、U-20W杯が3位でした。U-17は決勝でも(北朝鮮を)圧倒していましたが、日本相手にはカウンターを狙えばという戦い方をされました。U-20でも(敗れた)準決勝でフランスが同じようにやってきた。戦い方を非常に研究されているなと感じました。

 ただ、女子は非常に、日本のサッカーというものが確立しつつあるなと思っています。佐々木則夫前監督が11年女子W杯で勝ち、その後、昨年就任した高倉監督が良さを引き継ぎながら新しいことにトライしてくれている。ぜひ、この流れを大事にしてほしいと言っています。

 -男子も手倉森監督(現A代表コーチ)が率いたU-23がアジア王者になりリオ五輪に出場しました

 女子が五輪に出られなかった分、男子が出てくれたことには、本当に感謝しています。五輪に出る出ないで、その後の成長が大きく変わる。彼らはU-20で世界大会(同W杯)に出ていない世代でした。リオ五輪では初戦でナイジェリアに4-5で敗れましたが、この悔しさも次につながると思います。

 -ハリルホジッチ監督率いる、そのA代表は苦しい1年でした

 (W杯アジア最終予選、9月)初戦のUAE戦での黒星が痛かった。誤審(※注)とかがあったにせよです。ただ(11月に)サウジアラビアに勝ち、(10月には)オーストラリアにアウェーで引き分けました。折り返しの時点で、自動的にW杯に出場できる2位以内にしっかり入っている。初戦で敗れてから、ここまでよくきてくれたと思っています。

 今年はもっと厳しい試合が続きます。アウェーの残り3試合は全部中東。サウジ戦が良かったからといって、我々に保証されているものは何もありません。サウジ戦には、いい準備期間を取って(国際親善試合の)オマーン戦を挟んで臨むことができましたが、3月の17年初戦のUAE戦は欧州から少し近いとはいえ、2日前、3日前に集まらなくてはならないはずです。決して安心して臨める状況ではないと思っています。

 特に(9月の)最終戦はサウジでのアウェー戦。想像できないくらい難しい状況になると思います。かなりの危機感を持っていかないといけない。それは選手たちが、一番よく分かっていると思います。

 -代表から少し離れ、会長就任後、日本サッカー界のトップとしての仕事はいかがですか

 日本サッカー協会の仕事に関わって30年近くがたちます。この30年間、日本サッカーはアップダウンはあったにせよ、いい形で進んできたのは間違いないわけです。

 ただ、ここ最近の東南アジアや中東の力の入れ方を見ると、もうそんなに簡単ではないということは分かっています。だからこそ、「育成日本復活」を掲げています。会長2年目となる17年は、育成の大切さをもっと訴えていかなくてはならないと思っています。

 -就任後も、熱心に地方協会回りをされています

 地方、47都道府県のサッカー協会やJリーグのチームが本当に自立していかなくては、日本サッカーの未来はないと思っています。W杯、代表に依存し続けているという現状があります。もし万が一、代表がW杯出場を逃すようなことがあれば、みんながつまずいてしまうことになるわけです。

 そうならないためにも、すべてが自立していく方向を考えていかなくてはなりません。今まで、そういうシステムではなかった。そこをしっかり変えていきたいと思っています。

 -地方の声、反応はいかがですか。訴えておられる「世界基準」は浸透させられそうですか

 Jリーグの監督や選手たち、彼ら最前線で戦っている人たちと同じように、地方協会の方、地方のアマチュア選手や少年団、中学校の指導者の先生たちも、それぞれの最前線で戦っています。その声を聞かなければいけません。

 このファーイースト(極東)の我々が、代表チームで世界の大会に出て行くことももちろん大事です。クラブレベルでいえば、今年からクラブW杯は日本開催ではありません。開催国枠はなく、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)を制して出なければいけない。性根を入れて、来るべきその戦いに臨まなければなりません。

 クラブも47の都道府県協会も、みんなが「世界基準」で。これは私が会長選のマニフェストとしたことでもあります。オン・ザ・ピッチの戦いはもちろん、オフ・ザ・ピッチでも、不正がなく、しっかりとした経営を考えながら自立しなければいけない。そのために、今年もできることを、できる限りやっていきたいと思います。【聞き手・八反誠】

※注 浅野のゴールを割ったように見えたシュートがノーゴールと判定された

 ◆田嶋幸三(たしま・こうぞう)1957年(昭32)11月21日、熊本市生まれ。筑波大-古河電工で活躍し日本代表としても国際Aマッチ7試合1得点。引退後はドイツのケルン体育大に留学しコーチ資格を取得。U-17(17歳以下)日本代表監督、日本協会の技術委員長、専務理事などを歴任。10年から副会長、11年からアジア・サッカー連盟(AFC)の理事、15年に日本人4人目のFIFA理事となる。16年1月に初めて行われた日本協会の会長選で対立候補の原博実専務理事(当時)との一騎打ちを制し、同3月27日に日本協会の第14代会長に就任。