プレーバック日刊スポーツ! 過去の2月3日付紙面を振り返ります。2005年の1面は、W杯アジア最終予選前最後の調整試合、シリア戦で決勝弾を決めた、日本代表FW鈴木隆行でした。

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 苦しいときの鈴木弾だ。日本代表がW杯アジア最終予選前最後の調整マッチで、3−0でシリアに快勝した。リズムに乗れない苦しい展開の前半44分にFW鈴木隆行(28=鹿島)が決勝点となる先制ゴール。昨夏のアジア杯から「FWの軸」となった背番号「11」が、今年も勝負強さ健在をアピールした。サイド崩しも成功し、9日の本番・北朝鮮戦(埼玉)へチームが仕上がった。ジーコジャパンの通算成績は42戦24勝9分け9敗(PKは引き分け扱い)となった。

 やっぱり鈴木だった。シリアに対し、わずかシュート2本で0−0のまま迎えた前半44分。厳しい状況を打開する1発が、背番号「11」の振り乱した長い黒髪から生まれた。三都主の左クロスに「ゴールが見えていた」。競り合ったDFに体をぶつけてねじ込んだ。「FWの軸」として神様にあがめられる男の見せ場だった。

 ゴールを決めても、勝利後のインタビューでも、ヒーローはピクリともホオを緩めない。「厳しい試合展開だったんで、1点欲しいところだった。いいところで決められたと思う」と涼しい顔だが、苦しい試合でこそ、本領を発揮する頼れる男だ。昨年9月には、インドでのアウエー戦で同じ0−0の前半45分に決め、同10月のオマーン戦では最終予選進出を決める千金ヘッド。北朝鮮戦を前に、その勝負強さが健在であることをアピールしてみせた。1週間後の本番会場となる埼玉スタジアムでは、02年W杯ベルギー戦など7戦3発。最高のはずみをつけた。

 ドイツへのけん引役は、騒がれることが嫌いで素顔をさらけ出さない。それは、代表チーム内でもそうだ。「前線であれだけ体を張ってくれる頼れるやつ。でも、ふだんはつかみどころのない不思議なやつなんです。とぼけたキャラ」と主将の宮本が言う。だが、内に秘めた闘志は熱い。「そこ(北朝鮮戦)に向けて準備してきた。いい結果がでればいいと思う」。ジーコジャパンでFW陣最多20試合先発の「軸」が、その自覚をのぞかせた。

 鈴木を生かす攻撃パターンも確立された。カザフスタン戦同様、両サイドを崩し、中央でも攻めた。鈴木の1点目は右サイドの加地が起点で三都主の左クロス。2点目の宮本は、左FKのクリアを右から遠藤が再び中央へ入れて頭で押し込んだものだ。ダメ押しの3点目は、空いた中央をついて小笠原が豪快に決めた。

 5バック気味で中盤の2人も引いて守備を固めたシリアは、北朝鮮戦に向けて格好の予行演習だったが「サイド攻撃の意識は高くなっている。外が甘くなれば、中も甘くなる」と三都主。ジーコ監督も「両翼がかなり機能していた。サイドから攻めて中央も押し上がっていくことができているのがいい」と満足感を漂わせた。充実の国内組に中村ら欧州組が加わる北朝鮮戦。「予選を突破できるように初戦に集中したい」と仕事人・鈴木は目をギラつかせた。未知数の相手にも、日本は何も恐れることはない。

 日本代表9試合目となる埼玉スタジアムで、FW鈴木が相性の良さを見せた。この日の先制ゴールで、単独トップに躍り出る3得点目。これでジーコジャパン全71得点中FWの得点は計6人30ゴールで、占有率42・2%。トルシエ時代(全83得点)が計10人50ゴールで占有率60・2%だけに、まだまだFW陣の肩身が狭いのも事実だ。

 鈴木と埼玉スタジアムと言えば、02年W杯初戦となったベルギー戦が記憶に新しい。右足つま先で気合のこもった同点ゴールを奪い、快進撃の火つけ役となった。また、昨年6月インド戦では玉田の強烈なシュートがお尻に当たってゴールイン、と「ウン」も味方にしている。2・9北朝鮮戦は同じく埼玉スタジアム。ここは鈴木のゴールに期待しよう。

※記録と表記は当時のもの