新兵器でW杯アジア最終予選の連戦を勝ち抜く。サッカー日本代表は昨年11月から、国内活動では宿泊に体力回復をサポートするリカバリー装置を導入している。気化させたマイナス196度の液体窒素を全身に当てて血行促進を図る「クライオセラピー」と呼ばれる新技術で、欧州では主流になりつつある“冷やす”回復方法の最先端だ。その効果はどれほどのものなのか。プロ野球選手らも訪れる東京・六本木のサロン「CAVALO」に“潜入”し、実際に体験してみた。

 施術室に入ると、黒い筒状の装置が目の前に立っていた。電話ボックスよりひとまわり小さいサイズだ。下着と靴下、手袋をつけ扉を開けると、中からドライアイスのような白い冷気があふれ出た。立ったまま入る。身長170センチの記者はすっぽり収まり、外が見えない。土台がリフトになっており、顔だけが装置から出る高さまでゆっくり上がった。窒素を吸いすぎて酸欠にならないためだ。

 施術時間は筋肉量の多いアスリートでも3分が目安。一般男性は2分だ。だが狭い空間でマイナス196度の冷気を全身に2分噴射されると、首から下の体中の毛が逆立ち、鳥肌が立った。サロンを経営する鈴木社長に「炎症や疲労がある部分ほど効果が出やすい」と言われたとおり、直後は疲労感があった太ももが真っ赤になった。

 最も驚いたのは施術から約10分後だった。肌は冷えているのに、明らかに全身が温かい。体の内側にカイロがあるような感覚だ。海外の研究では、施術後は血行が通常時に比べて最大約8倍良くなることが証明されたという。実際、気温約15度の六本木を、シャツの長袖をまくって歩いても寒くない。赤みが少し引いた太ももに、血が勢いよく流れるのを感じた。1日、体は軽かった。

 FW本田が所属するACミランの選手たちも利用しており、海外での情報を聞いたハリルホジッチ監督が希望し、昨年11月から導入した。わずか数分で、選手が練習後に入るアイスバスと同様の効果があるとされ、鈴木社長は「体の芯まで冷えることがなく、体調を崩す心配がない」と利点も挙げた。チームでは食事会場の隣に設置され、夕食の前後に希望する選手が利用している。UAE戦から明日28日のタイ戦まで中4日で、時差調整もこなす選手の疲労をわずか3分で取り除く。短期決戦で力を発揮する秘密兵器も味方につけ、W杯切符をたぐり寄せる。【岡崎悠利】

 ◆クライオセラピー(Cryo Therapy)クライオは英語で低温や冷凍の意味。冷気で血管を圧縮させ、元に戻ろうと拡張する働きを利用して代謝を高め、血流を良くする施術。海外ではサッカーのポルトガル代表FWクリスティアノ・ロナルドやボクシングのフロイド・メイウェザーらが利用。国立科学スポーツセンター(東京)にも設置されている。代謝が向上しデトックスなど美容効果もある。1度の施術費用の相場は1万800円程度。個人での購入も可能で、1台約1800万円。