W杯で日本を率いた監督による連載「W杯を知る男たち ○○論」の第3弾は、前回14年ブラジル大会に導いたアルベルト・ザッケローニ氏(64)です。現在の日本代表について優れたチームプレーを評価し、来年6月のW杯ロシア大会での躍進に期待。同時に日本人の国民性を踏まえ、ずる賢さが足りないと課題にも言及した。
ザッケローニ氏にまず今の日本代表の印象を尋ねてみた。「確実にアジアで一番強いチームだ。いつも予選1位でW杯に入るのは偶然ではない。チームで勝つことを愛するね。素晴らしい技術も、持久力もある」。ではW杯本番でどのくらい戦えるのか。「私は14年W杯で8強に入れると思っていた。ただ、押しの弱さをなくさなければならない。歴史は歴史。過去に負けたからとか考えてはいけない。今の日本はW杯でも主役になれると思う。一流のチームとなった」。
チーム力が強みという日本で鍵を握る選手は誰なのか。「選手じゃない。チームで戦うんだ。(8月31日オーストラリア戦の先発に)本田、岡崎、香川なしでW杯出場権をとったのを見れば分かる。日本のようなチームプレーができるチームは少ない。選手全員がチームのために戦う」。そして続けた。「だが、世界一のチームではないことははっきりしている。なぜならフィジカル的に、そしてマリーシアの部分で劣るからだ。日本のリーグにはそれがない」。
マリーシアはポルトガル語でずる賢さ、駆け引きなどを意味し、イタリア語ではマリツィアと発音する。「この面で、日本は他のアジアの選手とも違う。相手に迷惑をかけないことを考えるのが日本だ」。マリーシア不足は日本の国民性とみているようだ。「選手がアジア以外の世界、イタリア、ドイツ、スペイン、フランス、イングランドなどの大きなチームで経験を積めば、マリーシアをつけることができるだろう。そうなると対戦相手にとって(日本は)すごく難しいチームになる」。
ザッケローニ氏にとって印象深いのが、13年コンフェデレーションズ杯での母国イタリア戦だ。日本は攻撃的に戦い、前半途中で本田と香川の得点で2点リードした。「デロッシが私のところに来て『こんなに走ったことはない』と言っていた」。相手のプランデリ監督はハーフタイムに多くの選手に交代の準備をさせるはめになった。「だが、マリーシアが足りなかった。そして負けた」。後半にオウンゴール、PK献上などで3-4。「でもプレーには満足した。あの試合は一生忘れない」と言った。
今でも日本への愛情と感謝がある。同時にセリエAでプレーする日本人が、長友だけになったことを寂しがる。「日本人の選手は比較的安いし、問題も起こさない。正直な話、どうして日本人を入れないのか分からないね。きっとファンが、ブラジル人、アルゼンチン人を入れると安心なのだろう」と分析。さらに「日本では技術に十分な注意をして、選手を育てる。イタリアは結果が重要なんだ。イタリアは結果を出すために育てている。それは間違っていることだ」と日本の方向性を支持した。【西村明美通信員、取材協力=グイド・デ・カロリス】
◆アルベルト・ザッケローニ監督 1953年4月1日、イタリア生まれ。若くして選手を引退し、30歳でセリエCで監督になり、その後ラツィオ、インテルミラノ、ユベントスなど強豪を率いる。98-99年にACミランでセリエA優勝。10年9月から日本代表を指揮、14年W杯をもって退任。16年1月に北京国安(中国)の監督に就任も、同年5月に解任。