国際サッカー連盟(FIFA)は16日にコロンビアのボゴタで理事会を開き、6月開幕のW杯(ワールドカップ)ロシア大会で「ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)」と称する映像確認の審判員を採用すると決めた。86年大会のアルゼンチン代表マラドーナによる「神の手」ゴールのような明らかな誤審をなくすため、いわゆるビデオ判定を導入。一方で判定のために試合が止まるなど、賛否両論ある制度が最高峰の舞台にどう影響を与えるか注目される。

 FIFAのインファンティノ会長は「歴史的な決断だ。より公平で透明なスポーツになる」と、今回の決定の意義を訴えた。VARは誤審を防ぐためピッチ上の主審を補佐。携わるのは「得点」「PK」「一発退場」「(警告、退場などの)人定」の4点に限られ、主審が見逃したり、誤った可能性のある点を映像で確認し、内容を伝える。直接判定を下すことはなく、最終的な判定は主審のみに決める権限がある。

 サッカーは映像など先進技術を判定に持ち込むことに慎重だったが、前回14年W杯では得点かどうかの判定を補助する先進技術「ゴール・ライン・テクノロジー」を初採用。さらに今回は映像による判定の対象をPKなどに広げた。同会長は「テレビ視聴者は主審が大きなミスをしたかどうか分かる。2018年にもなって誤審が分からないのは当の主審だけなどあり得ない」との旨を強調する。

 VARの試験運用を昨年のコンフェデ杯などで実施し、「(ピッチ上の)審判団を確実に助けられるとの確証と具体例を得られた」と同会長。一方で、現場では判定に時間がかかり過ぎるなど批判がある。「試合の流れが止まる」「リプレー映像が会場の大型スクリーンで流れないため分かりづらい」との声も。試験導入しているセリエAやブンデスリーガの現場でもたびたび物議を醸している。ケルンFW大迫勇也は「好きじゃない。流れがあってのサッカーだと思う」と、違和感を口にする。

 映像を見直しても最終的に決めるのは主審だ。PKかどうか、一発退場かどうかなど微妙な判定はなくならない。インファンティノ会長は「100%は無理だが、99%は正しい判定になる」とするが、この新制度がサッカー界にとって適正かどうか、新たな議論が生まれることは免れない。

 ◆ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR) 試合中の微妙な局面を映像で確認し、主審に伝えて判定を手助けする「ビデオ副審」。W杯ロシア大会では国際審判員が任命され、3人の補佐役(AVAR)とチームを組んでモスクワの視聴覚室で作業する。スローモーション専用を含む30台以上のテレビカメラからの映像を検証。主審は一発退場や、得点場面で攻撃側の反則が疑われる場合などは、自らもピッチ脇に設置されたモニターで映像を確認する。