アジア杯はカタールが初優勝を飾り、日本代表は1-3の完敗で準優勝でした。

その森保ジャパンの戦いぶりと、チーム及びファンの振る舞いについて、中東・バーレーンに97年から在住する海島健氏(52)が、現地報道、現地ファンの反応を調査してリポートします。

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『日本人はムスリム以上にムスリムだ。しかし、1つだけレッドカードものの違反行為がある』

大会後の「定番」ともなったのが、日本代表スタッフなどによるロッカールームの清掃ニュースです。UAE開催のアジア杯でも地元のメディアなどで取り上げられました。アラブ世界で行われたこの大会でのアラブ人の反応には独特のものがあったので、ご紹介します。

新聞はもちろんのこと、インスタグラムの記事でも取り上げられ、大きな反響がありました。まず、大きな背景として筆者も前回のコラムで取り上げた「靴投げ事件」がありました。コメント欄には「日本チームは更衣室をキレイにして帰った。ファンは(負けたからといって)靴やペットボトルを投げて帰るようなことはなかった」とありました。

これに呼応して、「これは日本の文化であって、他の国の人がすぐにまねできるようなものではない」とか、「何たる文化の違い。日本人から学びたい。彼らの全てが美しい。自分の子供も日本の学校にいれて学ばせることができたらなあ」といった絶賛の言葉が見られました。コメントのほとんど全てが「日本のマナーを見習おう」というトーンのものでした。(実際に筆者もバーレーン人から以前、「どうすればバーレーンにある、日本人学校にわが子を入れられるか」という相談を受けたことがあります)

これらの肯定的なコメントをいかにもイスラム文化圏らしい言葉で総括的に述べたものに、「彼らは本当のムスリムだ。でも、ムスリムではない」というコメントを見つけました。

これの意味することは、日本人の大多数の人の宗教はイスラム教ではないが、ムスリムのあるべき姿をすでにその行動で体現している、ということのようです。この言葉も日本語学習者から言ってもらえることはよくあります。

「もし日本人がシャハーダ(信仰証言)を唱えさえすれば、天国に行くのはまず彼らだ。我々ではない」というコメントも面白いですね。信仰証言をして実践を積み重ねて天国にいけるかどうかが重要なのに、すでにその資格ありという好評価ということになります。

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この手の日本人に対する驚嘆のニュースは昔から中東エリアでは存在していて、サッカーに限っても、昔にさかのぼるとドーハの悲劇あたりからすでにあったのです。以前にもコラム『アッラーの国のフットボール』でも取り上げた話題ですが、ここでも再度、紹介してみましょう。

1993年のW杯アジア地区最終予選を知るバーレーン人に、「おいケン、知っているか?あの時、日本のサポーターは(イラク戦のロスタイム同点弾で)初のW杯出場をのがしたのにもかかわらず、泣きながらスタジアムのゴミを拾って帰ったんだよ」と言われたことがあります。まさに中東サッカーニュースの鉄板ネタでもあり、代々語り継がれているのです。

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ただ、今回のこれらの絶賛コメントは、単にサポーターが今回もスタジアムをきれいにして帰途につき、日本代表のロッカールームもきれいだったから単発的に取り上げられたということでもないようです。かなり大きな影響を与えているのが、『ハワーテル』というテレビ番組で、日本社会の素晴らしい面に焦点をあてて放送したものです。コラムの関係上、今回は深入りできませんが、今後また機会を見つけて紹介したいと思います。

それにしても、絶賛コメントが並ぶなか、否定的なコメントが全くないのか再度、翻訳協力者にも確認してもらったのですが、ひとつ致命的な否定コメントがありました。

それは、「彼らは酒を飲みすぎる。酒に飲まれて道にひっくり返っている日本人をよく日本では見るよ」というものでした。当然、ムスリムとしては一発アウト、レッドカードで退場ものになります(笑い)

今回の記事は、翻訳協力者に「日本代表が負けて、ファンも選手もがっかりして日本に帰ったんでしょ。でも、こういうコメントを知ったら少しは元気になるんじゃない」と言われ、まとめてみましたが、いかがだったでしょうか。こちらの人のやさしさとおおらかさを、日々見習うべき筆者がお届けしました。

◆海島健(うみしま・けん)1965年(昭40)東京出身。一橋大社会学部卒。97年よりバーレーン大学で日本語教師を務めている。98年のバーレーンでのガルフ杯より同国代表チームの試合を見続け、現在は中東サッカー全般をフォロー。「アッラーの国のフットボール」をニッカンスポーツ・コム(nikkansports.com)において執筆、日本のサッカーファンに中東情報を届けてきた。