<女子W杯:日本1-0ドイツ>◇準々決勝◇9日◇ドイツ・ウォルフスブルク

 歴史的勝利だ!

 世界ランク4位のなでしこジャパンが延長の末、3連覇を狙う開催国の同2位ドイツを撃破した。開始から相手の攻撃に圧倒されたが、5大会連続出場のMF沢穂希(32=INAC)を軸にした献身的な守備で耐え抜き、延長後半3分、その沢のパスからFW丸山桂里奈(28=千葉)が右足で決勝点を決めた。強国ドイツから9度目の挑戦で初勝利を挙げ、1995年大会の8強を上回る、初の4強入りを成し遂げた。13日(同14日)の準決勝で、スウェーデンと対戦。勝てば初のメダル獲得が確定する。

 勝利の笛が鳴った。耐えて、耐えて、耐え抜いた120分が終わった。沢の目に涙が光っていた。「久しぶりに、うれし泣きしました」。1度も勝てなかったドイツの厚い壁をついに突き破った。北京五輪でメダルを目前で阻まれた因縁の相手で、99年米国大会米国戦以来、W杯で15連勝中。前回大会は無失点で優勝していた。それだけに「正直びっくりしています。こんな大きな舞台でドイツに勝てたことは本当にうれしい…」と、沢自身も信じられないようだった。

 平均身長で日本を10センチも上回るドイツに開始から攻め込まれた。DFライン目掛けてボールを蹴り込まれたが、DF岩清水、熊谷がしっかりと体を合わせた。そのこぼれ球を沢が懸命に拾い続けた。「どこにセカンドボールが落ちてくるというのは、ずっと経験してきたことで分かった」。5大会連続出場の経験が、ドイツの二重三重の攻撃を阻止した。

 「苦しい時には私の背中を見て」。これまで沢はそう言って、若手を鼓舞し続けてきた。この日も背中でチームを引っ張り続けた。前半5分に右肩を強打してピッチに倒れ込んだ。延長前半1分にはスパイクで右太ももを強打され、担架で運び出された。しかし、その度に顔をしかめながら、ピッチに戻り、走った。その気迫がチームにも浸透した。

 決勝点を演出したのも沢だった。0-0で迎えた延長後半3分、FW岩渕からボールを受けた。すぐに浮き球のパスを前線に出した。「入れてくれと思って願いを込めました」。抜け出したFW丸山が、角度のないところから右足で決勝ゴールを決めた。

 「みんなが最後の笛が鳴るまで走り続けた。みんなでとって、みんなで守った120分」。試合後、沢は言った。もともとは攻撃の中心選手だった。しかし、07年12月就任した佐々木監督にボランチにコンバートされた。守備の比重が高くなり、最初は戸惑った。それから3年。今では「得点もいいけど、全体のバランスを見ながらやることに楽しみがある」と話す。エースの新境地が、このチームの強さの源になっている。

 海外での大会期間中は東京の実家に連絡することはほとんどなかった。しかし、今大会は決勝トーナメント進出を決めた1次リーグのメキシコ戦後、母満壽子(まいこ)さんにメールを送った。「最後まで応援してね」。“集大成”と位置付ける大会で、「最後」まで戦い続ける。そんな決意表明だったのかもしれない。

 ドイツ戦では最優秀選手にも選出されたが、歴史的勝利だけで満足はしない。「なでしこの歴史を変えられるように、これに満足せず、頂点目指したい」。「まずはメダル」と言い続けてきた沢が、初めて封印していた「頂点」の言葉を口にした。世界大会過去最高の08年北京五輪4位をまだ超えたわけではない。本当のクライマックスはここから始まる。【鈴木智貴通信員】