なでしこクイーン沢穂希(32)は商店街の“星”でもあった。今年1月に神戸に本拠地を置くINACに移籍。「ほとんど毎日自炊」という沢の胃袋を支えているのは、地元でも庶民的な市場で知られる神戸・春日野道の商店街、大安亭市場(おおやすていいちば)だった。「今の環境なら1カ月3万円の食費で抑えられます」と胸を張っていた沢のパワーの根源は、高級スーパーでも百貨店でもない、昭和の薫りが漂う市場だった。

 神戸の繁華街、三宮から各駅停車でわずか1駅。「ほぼ毎日自炊する」という沢が好んで買い物するのは、地元でも庶民的なことで知られる大安亭市場だった。

 その名の通り、特に野菜が安いことで知られる同市場は200メートルほどのアーケードに八百屋や鮮魚店、肉店に豆腐店が軒を連ねる昔ながらの商店街。どこもが活気あふれる市場に沢は自宅から自転車で通う。「あそこの方が30円安いって分かるとキャベツひとつでも、そっちの店で買う」と胸を張っていた沢は、商店街でも知られた存在だった。

 「ミートのマエダ」の奥藤英和さん(61)は「初めて来た時から“あっ沢ちゃんや”と思ったよ。でも、自分から名乗るわけじゃないしね。ホントにおとなしい、普通の人」と控えめな印象を明かす。「買っていくのはほとんど豚肉。ミンチとかね」とその庶民的な一端を明かした。

 近くの八百屋の店主は「ワシはサッカーあんまり知らんからな。あれが沢さんって知ったんは最近。ユニホーム着たまま、この前の道を5、6人で自転車でシャーッと通って行くんや」と笑った。「お姉ちゃんら、何やっとんの?」と声を掛けると「サッカーです。また応援してくださいね」と気軽に答えたという。

 「私、1個も好き嫌いがない」と言い切る沢はパスタはもちろん、カレーもさまざまな種類を作る。後輩で日テレからINACに一緒に移籍してきたMF大野忍(27)も「沢さんの作るものは何でもおいしい」とうなるほどの腕前だ。自信の逸品は、レンコンやゴボウ、ジャガイモを入れた「根菜ドライカレー」。父が調理師の免許を持ち、料理好きの母の影響で自然に料理の腕を磨いたという沢は「今なら私、1カ月食費3万円で抑えられますよ」と言い切る。決して金銭的に恵まれているとは言えない女子サッカー界。しかし、エース沢は地元の安い商店街で食品を調達し、パワーに変えていた。【土谷美樹】