<ロンドン五輪アジア最終予選:日本3-0タイ>◇1日◇中国・山東スポーツセンター

 ロンドン五輪出場を目指すなでしこジャパンが、タイとの初戦を制し、勝ち点3を獲得した。前半0-0で折り返す苦しい展開を救ったのが、「おしゃれ番長」MF川澄奈穂美(25=INAC)。後半16分にDF上尾野辺めぐみ(25=新潟)のスルーパスに抜けだしスライディングシュートを決めた。この先制点をきっかけに持ち前のパスサッカーが機能し始め、計3ゴールを挙げた。明日3日は中1日で韓国戦を迎える。

 川澄はゴール前で立ち上がると、スライディングで巻き上がった左足のユニホームを手で直した。大事な先制点を決めた直後も、女性らしさを忘れなかった。

 五輪予選は甘くなかった。ドイツW杯優勝メンバーの中盤4人をそっくり入れ替えて臨んだが、前半は0-0と大苦戦。「想像以上にタイの守備が整っていてシュートまでいけなかった」と川澄。しかし後半16分、DF上尾野辺の左足スルーパスに走り込み、そのまま滑り込んでシュート。ボールは飛び出した相手GKカニャウィーが伸ばした手の先を抜け、ゴールネットを揺らした。最高の笑顔でガッツポーズをみせた。

 真っ先に駆け寄ったのは小学校から同じチームの“相棒”上尾野辺。川澄が「私たちは姉妹みたい。言葉で伝えなくても何を考えているのか分かっちゃいますね。来ると信じて走ったら、ちゃんと思った通りのパスが来ました」と話せば、上尾野辺も「はっきり裏へ抜けていたのが奈穂のいいところ。動きは見えていました。出すだけでしたね」。神奈川県大和市で育った同年齢の「幼なじみ美女ホットライン」が初戦の厳しい戦いを救った。

 佐々木監督は「どんなFWの組み合わせでも十分やれる」と手応えを得ている中、東京合宿から常に川澄を軸にしてきた。その期待に応えた。それでも本人は反省を忘れない。「前めなので点をとって当たり前と思っている。今日は結果が出て良かったけど、継続しなくてはいけない。満足していません」。前半はシュートシーンが少なく、後半21分にも上尾野辺からの折り返しをフリーで外したことを悔やんでいる様子。裏を返せば、エースストライカーとしての自覚が芽生えてきているともいえる。

 W杯を戦ったドイツに続き、今大会も仲間にネイルアートを施し、ムード作りに一役買っている。ただし事情は少し変わってきた。「(合宿地の)岡山でも、中国でも私の出番は少なくなってるんです。みんなやり方が分かってきたみたいで、セルフサービス状態ですね」。今回はピッチ内により専念できている。ちなみに自身のつめは中国入り後、黒、青、黄、赤、緑の5色をあしらった五輪カラーに染め直した。

 佐々木監督は「世界チャンピオンになった後のタイ相手でも、そんな簡単なもんじゃない」と口を真一文字に結んだ。チームが苦しんだ中で光った川澄。W杯準決勝スウェーデン戦で2得点を挙げた「なでしこのシンデレラ」が、エースとしての階段を、また1段上った。【鎌田直秀】