【済南(中国)10日=鎌田直秀】W杯ドイツ大会から全試合フル出場を続けるDF鮫島彩(24=ボストン)が、今最終予選も全フル出場を志願した。すでにロンドン五輪出場を決めているなでしこジャパンは、今日11日の中国との最終戦を控え組中心で臨むが、鮫島は前日練習でも先発組の「定位置」左サイドバックに入った。くしくも中国戦は3月11日の東日本大震災からちょうど半年。06年から5年間、福島の東京電力に所属した鮫島は「消化試合とは思わない」と、被災地への思いを胸に最後まで全力疾走する。

 練習後、DF鮫島の笑顔が突然の涙でぬれた。中国戦は3月11日の東日本大震災からちょうど半年-。その話題になったときだった。06年から5年間、なでしこリーグの東京電力の選手、そして社員として福島原発で働いてきた。ずっと被災地の思いを背負いながら戦い続けてきた。

 鮫島

 今も厳しい状況の中で作業をしている人もいます。知り合いもいる。応援してくれている知らない人の中にも、苦しい状況の人はたくさんいると思う。なでしこを見て「頑張らないと」と言ってくれているメッセージもしっかり届いている。逆にこっちも頑張れている。だからこそ明日も消化試合という意識はまったくない。失ったものをあんまり考えると…。

 それ以上は言葉にすることが出来なかった。福島第1原発事故で東京電力は無期限休部。鮫島は米女子リーグに移籍した。一時は「私だけサッカーをしていてもいいのか」とやめることさえ考えた時期もあった。気持ちを前向きにさせてくれたのは仲間や友人たちの後押し。そしてつらい状況を乗り越えようとする多くの人の姿だった。

 だから鮫島は控え組中心で臨む「消化試合」の中国戦も先発出場を志願した。主力を大幅に入れ替えた前日の紅白戦でも左サイドバックの定位置を譲らなかった。「連戦で疲労がたまっているとかは感じない」。W杯ドイツ大会では延長戦を含む6試合フル出場。今大会も4試合フル出場中。合計960分。疲れていないはずがない。それでも被災地を背負って、ピッチに立ち続ける決意だった。

 心の支えがもう1つある。1日のタイ戦で母校の宮城・常盤木学園高の友人が手紙を集めて中国まで応援に来てくれた。「感激しました。連絡を取り合って集めてくれたみたいです。すごく元気になりました」と鮫島。苦楽をともにした仲間たちからの一言一句が心身を癒やしてくれた。

 立ち上がろうとしている日本のため、サッカーを続ける気持ちを高めてくれた仲間のため。「私たちを見てくれている人に気持ちが届くように戦いたい」。鮫島はあと90分間、全力疾走で「鮫スマイル」を届ける。