【パリ18日=益子浩一、松本愛香通信員】日本はW杯で優勝できる。元日本代表監督のフィリップ・トルシエ氏(57=中国・深セン監督)が、本紙の直撃取材に応じた。1勝1敗で終えた欧州遠征(フランス、ブラジル戦)を振り返った上で、W杯で優勝できる可能性について「論理的にウイ(イエス)だ」と答えた。02年W杯日韓大会で、日本を初の決勝トーナメント進出に導いたフランス人監督が見る「今の日本」とは-。

 日本への愛着は、深い。まだ世界で勝ったことのなかった日本を率い、02年W杯日韓大会で世界16強へと導いた。あれから10年。トルシエ氏の「目」に、今の日本はどう映るのか。欧州遠征2試合を踏まえた上で、30分近くも率直な思いを語ってくれた。

 「チームは成長し、内容は良かった。欧州でプレーしている選手たちがいるのも、その理由の1つにある。フランス戦はたとえ親善試合だとしてもいい経験になった。日本は恐れられ、リスペクトされるチームになってきている。日本が勝ったことに、驚きはない。今の日本は世界のトップ15に入るレベルにあると思う」

 フランス戦は内容で圧倒されながら、終盤の香川の得点で歴史的金星を挙げた。0-4で惨敗したブラジル戦はどうか。

 「日本は学習すべきところがある。あまりにもオフェンシブだった。早い時間帯の失点で、別のやり方を強いられるようになった。しかし、いい試合だったと思う。負けたという結果ではなくて、内容が良かったということを考慮しなくてはいけない。2、3失点後にシナリオが複雑になった。初めはよくプレスしていたが、失点が早かったために攻撃が混乱した。エラー(ミス)も出た。この試合はいい経験になったと思う。成長するために代償を払うことはつきものだ」

 確かに日本は成長している。では、今の日本の長所、そして短所はどこか。

 「チームワークとバランスがいい。フランス戦で見せた守備能力も。短所は経験の少なさ。(以前より)日本が強くなっているとしても、世界のトップ10には入らない。ただ、1試合だけで見れば、どこの国にでも勝てるだろう。日本にはドイツ、プレミアでプレーしている選手がいる。欧州でプレーする選手をもっと増やしていった方がいい。特に長所としては技術、団結力。香川、本田、長友、川島のような何人かの選手が、チームに経験をもたらすと思う。長友は既に世界的に有名だし、乾にはポテンシャルがある。彼はすごいスピードで成長すると思う。あと右サイドの選手。彼(清武)も、大きなポテンシャルを持っている」

 日本人の能力の引き出し方を、トルシエ氏はよく知っている。だからこそ、日本のエースに関しては、自ら名前を挙げて苦言を呈した。それも期待値が、他の選手より、はるかに高いからこその表れだろう。

 「本田のブラジル戦に関しては、がっかりした。堂々たる態度ではなかった。失点したことで気持ちが落ちてしまったのか、やる気を失っていたように見えた。好調ではなかったのだろう。ブラジル戦は良くなかったが、今後もっと良くなることを期待している」

 日本は中盤の層は厚いが、FWは人材が不足している。その本田が、ブラジル戦ではザック体制で初めて先発FWに入り、後半からは香川もFWに近い位置でプレーした。本田&香川をFWで起用する采配について、どう考えるか。

 「私はいいアイデアだと思う。香川がフランス戦で同じポジションだったら、もっと良かったかも知れない。彼らは補足し合う選手。本田はトップでボールを持ってプレーし、その後ろで香川は前に出てくるプレーを好んでする。よって、お互いにいい補足になる」

 もし今、トルシエ氏が日本を率いていたとしたら、どんなチームを作るのか。02年の世界16強を超える仕事をできるのか。その問いにも率直に答えてくれた。

 「はい。(16強を)超えられると思う。選手は自信を持って、コンプレックスを取り除いている。日本がW杯で決勝トーナメントに進むのはサプライズではない。準々決勝進出が期待されて、それもノーマルな状況だ。攻撃の面で論理的で、自己表現をしている。例えば06年W杯の日本-ブラジル戦の1-4の敗戦と比較しても、今回はより組織的だった。ザッケローニ監督はいい仕事をしている。彼は選手を備えているし、世界のサッカーをよく知っている。私はザッケローニ監督がしている以上(の仕事)はできないと思う」

 本田が「W杯で優勝する」と公言し、ザッケローニ監督も「14年W杯までにフランスやブラジルと肩を並べるところまで持っていく」と語っている。1年8カ月後のW杯で、日本は本当にW杯で優勝を目指せるチームになれるのか。

 「はい。W杯優勝は、世界最高チームがなる根拠はない。例えば02年W杯では韓国が4位。フランスは1次リーグ敗退だ。よって、日本が優勝できるかという質問に対しては『ウイ(イエス)』。論理的にウイだ。1試合でフランスやブラジルを倒すことはできる。W杯優勝チームが世界最高チームの証しではない。セオリーとして可能。私の意見としては、数年後に日本が優勝できると確信している。だがそれは14年というより、22年になり得る。もう少し時間が必要だ」

 ◆フィリップ・トルシエ

 1955年3月21日生まれ、パリ出身。現役時代はフランス2部でDFとしてプレーし、28歳で引退、指導者に転向する。ナイジェリア代表監督として98年W杯予選突破、本大会では南アフリカ代表を指揮し、同大会後に日本代表監督に就任。00年シドニー五輪では32年ぶりの、02年W杯では初の決勝トーナメント進出に導く。その後、カタール代表、モロッコ代表など指揮。06年にイスラム教に改宗。07年琉球FC総監督、11年深セン(中国)監督に。