DF吉田麻也(25=サウサンプトン)が危機感を力に変え、この2連戦からはい上がる。欧州組の吉田は7日、セルビアで日本代表に合流。6月のコンフェデレーションズ杯以降、守備に不安を抱える吉田は所属クラブで定位置を失い、今季リーグ戦は開幕から出番がない。吉田が拠点とする英国南部サウサンプトンで、現状を打ち破る覚悟と代表について日刊スポーツが直撃した。

 吉田は今、サッカー人生で味わったことのない苦境にいる。プレミアリーグでは今季開幕から7戦で出場がなく、うち6戦がベンチ外。公式戦はリーグ杯の2試合だけだ。逆にサウサンプトンは4位と絶好調。明るい性格のDFは表情を引き締め、生活の拠点を置く、あのタイタニック号が出航した英国南部の美しい港町で胸の内を語った。

 「チームはリバプールのような強豪に対しても、無失点で勝っているわけですし(控えの)現状が大きく変わることはないと思います。来るべき時をじっくり待っていようという感じです」

 プレミア1年目の昨季はリーグ31戦連続フル出場など、不動のレギュラーとして残留に貢献した。しかし2年目はコンフェデ杯参加でチーム合流が遅れたこと、股関節のけがの影響、さらに補強もあり大きく出遅れた。体調の不安はなくなったが、これだけ試合から遠ざかったことはない。

 「遅れて合流してリハビリから始まって、その間に新しい選手も入った。キャンプからハードワークをした選手が使われているというのは、ある意味当たり前。ただ、さすがにベンチ外が続くことは名古屋で試合に出始めてから今までなかったので…」

 オランダのVVV移籍直後の10年1月に左足甲を骨折。日本での再手術などもあり、実戦復帰まで半年以上も離脱した。復帰はその年の秋だった。11年1月には代表の主力としてアジア杯で優勝を成し遂げた。この経験を糧にする。

 「オランダでけがをした時はサッカーができなかった。その時のことを思えばという気持ちはどこかで支えになっている。けがをしている時よりは100倍いい。けがから復帰して手術で日本に戻って名古屋で夏に走りだした時、やっとここまで来たと思った。その半年後にはアジア杯に出てチャンピオンになっていた。半年後に何が起こるかなんて誰も分からない。あの時は自分ができることを精いっぱいやってチャンスをつかむことができた。もちろん試合に出られるのがベストだが、こういう状況になった時に何ができるか。それも選手の能力の1つだと思う。ここを乗り越えて強くなりたい」

 同様に日本代表でも苦境にいる。コンフェデ杯から日本は失点を重ねた。同杯イタリア戦や8月のウルグアイ戦での吉田の対応は厳しい批判にさらされた。それでも、9月の国内でのグアテマラ、ガーナとの2連戦で改善の兆しが見えた。

 「進んでいる方法は間違っていないと思う。ただ、1試合や2試合で評価できるものではない。続けてやっていかなきゃいけない。『半年後に何が起こるか分からない』と言いましたが、それはポジティブな面でもネガティブな面でも同じ。チームとして悪くなる可能性もあるし、僕だって代表に選ばれなくなる可能性もある。危機感を常に持ち続けてやらなきゃいけない。そうでなければ、半年後に痛い目を見るのは自分だと思う」

 吉田はシステムや攻撃的、守備的といった単純な見方でサッカーをとらえることが好きではない。責任は背負うが、守備は守備陣だけ、攻撃は攻撃陣だけのものではない。その意味でコンフェデ杯以降、大量失点が続きつまずいた代表は今、チーム全体として守備の意識が明らかに変わったという実感がある。

 「大事なのは強いチームに対してどれだけできるかということ。その課題は変わっていない。ただ、守備の意識は明らかに変わった。前線のプレスのかけ方が変わったし、後ろの僕たちはそれによってプレーしやすくなって安定した。あくまで前の2試合(グアテマラ、ガーナ戦)に関してですけど」

 今回のセルビア、ベラルーシとの2連戦は手応えを少しずつ確かなものにするための試金石。そのための貴重な場だと位置づけている。何より、名古屋時代に師事したストイコビッチ監督の母国セルビアとは特別な縁を感じている。

 「次のセルビアはきっとレベルが高いと思う。いい相手だと思うのでアウェーで結果を出したい。ピクシー(ストイコビッチ監督)も絶対見るでしょうから。セルビアといえば、まずピクシー。もし負けたら何を言われるか分かりません(笑い)。何より、名古屋で僕を使って育ててくれた監督ですから成長を見せたいですね」【取材・構成=八反誠】

 ◆サウサンプトンでの吉田の状況

 開幕前に同じセンターバック(CB)のクロアチア代表DFロブレンが移籍金800万ユーロ(約10億円=推定)で加入。出遅れた吉田は現在4人いる主力CBの4番手で公式戦はリーグ杯2試合にフル出場しただけ。チームはリーグ7試合を終え勝ち点14(4勝2分け1敗)と絶好調で、失点がわずか2と守りも安定している。