<国際親善試合:日本2-2ベネズエラ>◇9日◇横浜国際

 慶応ワンダーボーイが、日本のワンダーボーイになった!

 日本(FIFAランク44位)がベネズエラ(同29位)と引き分けた。現役慶大生でプロ1年目の日本代表FW武藤嘉紀(22=東京)が、アギーレジャパン第1号を決めた。無得点で折り返した後半から出場。後半6分にドリブルから左足ミドルで先制点。デビュー2戦目でゴールをマーク、アギーレジャパンの新星となった。

 アギーレジャパンの新星が輝いた。武藤はなりふり構わずゴールに向かった。相手クリアボールを拾うと、相手選手をなぎ倒して一気に加速。ドリブルを緩めることはない。右から本田が、左からは岡崎が呼んだ。しかし視線はゴール。1タッチ中へ運ぶと、左足を思い切りよく振り抜いた。右隅に吸い込まれるシュート。後半開始から出場し、6分後の出来事にスタジアムのボルテージは最高潮に達したが、武藤の耳には届かなかった。

 「岡崎さんと本田さんがいてパスの選択肢はあったけど、シュートを打とうと。決まっちゃったという感じ。入った後は、時が止まったような感じで歓声が聞こえなかった。経験したことのない面白い感覚」

 喜ぶアギーレ監督からは「ムイ・ビエン(よくやった)!」と激励を受けながら、右手を握り合った。能力を見初められ、デビュー戦に続きチャンスを与えてくれた指揮官の期待に応える新体制1号。98年のW杯初出場以降、新監督就任後の初ゴールを決めた選手は、W杯メンバーに選ばれている。22歳の大学生。慶大4年で東京入りし、プロ1年目から日本の新星にまで成り上がった武藤を、横浜の夜空に光る満月が照らしていた。

 瞬く間に日の丸が似合う男になった。プロ生活わずか半年。世代別を通しても、初めての日本代表入り。第1戦では、左ポストをたたく惜しい左ミドルがクローズアップされたが「ドリブルと緩急をつけた動きは大柄な外国人相手に通用する」とデビュー戦で手応えをつかみ臨んでいた。

 夢に見た代表の舞台。サッカーを始めた小学校低学年の頃、父親に連れられ代表戦を観戦した記憶がわずかに脳裏に残っている。「対戦相手も、場所もよく覚えていないんだけど、『すごいカッコイイな!』って思ったことだけは覚えている。いつか自分もこんな場所に立てたらと思いながらサッカーをやってきたけど、まさか本当に立てるなんて」。夢は現実となった。

 強烈な印象を残したワンダーボーイ。ふつふつと湧き上がる感情は「あこがれの代表から、選ばれないといけない、定着したいという気持ち」。でも地に足は着いている。「(W杯まで)まだ4年ある。ここでつまずくこともある。気を引き締め直して謙虚にプレーしていきたい。一喜一憂することなく泥臭いプレーをしていきたい」。4年後に向けて再スタートを切った日本を、光輝かせる。【栗田成芳】<武藤嘉紀(むとう・よしのり)アラカルト>

 ◆生まれ

 1992年(平4)7月15日、東京・世田谷区生まれ。

 ◆慶応ボーイ

 松丘小時代はバディSC。中学から東京U-15深川に入り、東京ユース昇格。慶応高卒業時に、トップ昇格の選択肢がある中で慶大進学。12年6月に東京の特別指定選手。13年12月に加入が決まり、14年からプロ契約。現在も経済学部4年生。

 ◆運動量

 スパイクにICチップが埋め込まれており、走行距離は90分で約12キロにも。バディSC時代に「10キロ走ってから練習だった」ので走力がついた。

 ◆笑顔が自慢!?

 Jリーグ公式サイトで、チャームポイントは「笑顔がいいと、たまに言われる」。ちなみに好きな女性のタイプは「チャーミングな人。かわいいしぐさをする人」。

 ◆憧れ

 元アルゼンチン代表のマラドーナ。

 ◆サイズ

 178センチ、72キロ。

 ◆血液型

 A型。