<アギーレ問題こう思う(2):佐藤弁護士が対応の問題点指摘>

 連載「アギーレ問題

 こう思う」の第2回は、弁護士歴14年の佐藤弘康弁護士。企業法務を取り扱う専門家は、初動の甘さと対応の遅さを指摘した。

 アギーレ監督の疑惑が渦巻き、騒がしさを増している。アジア杯で指揮を執ることは決まっているが、日本協会の対応の遅さは否めない。

 ▼初動

 9月27日にスペイン紙の報道に端を発した疑惑は、10月もくすぶり続けた。最初に報じられた時点で、霜田強化担当技術委員長は「報道されただけで、アギーレ監督に『あなたがやりまたしたか?』と聞くのも失礼でしょう」と語った。実はこの時点で方向性は間違っていた。佐藤弁護士は「スクープが出る→報道が過熱する、という流れの中で本人(アギーレ監督)に、やったかやらないかという事実関係を聞くのは当然のことで、もっと大事なのは『なぜこういった報道が出るのか』を確認しなければなりません」と言う。さらに後日、原専務理事は「監督はやってないと言っているので、それを信じるしかない」と話した。これについては「監督には莫大(ばくだい)なお金を払っている。単なる従業員ではありません。専務理事個人として『信じる』のは結構ですが、それならメディアを前にしても『人間同士として信じる』と言うべきでした。言い方の脇が甘い印象です」。

 ▼告発後

 日本時間15日深夜に告発されたことが、現地で報じられた。16日には西沢コミュニケーション部長が会見したが、大仁会長、原専務理事の対応は18日だった。「こういう場合企業のスタンスは、状況が確定するまで今後の方針について断言はしない、事実関係を確認する、どんな状況にでも対応できるようにする、の3本柱です。対応も3日遅い。大切なのは組織が巻き込まれないことです」。疑惑の一報が流れた時点で告発とその先を見越して準備しておく必要があった。「準備しておいて何もなければ、それはそれでいいので」。

 ここまでの対応に点数をつけるなら「及第点ぎりぎりというところ。定石はうっていますが、それ以外での失点も多い印象です」。会見に顧問弁護士を同席させるなど、修正をはかってはきた。だが初動で危機感のなさを露呈し、告発後の動きも鈍かったことが尾を引いている。

 ▼アギーレ監督会見のポイント

 29日からアジア杯へ向けた国内合宿が始まる。それよりも前に、監督自身の口から説明する場が設けられる可能性がある。「監督は『やっていない』『事実無根』ということしか話せないと思います。欧米は、黒だとしても証明されなかったら白だという文化。『私の不徳の致すところです』という言葉は期待しないほうがいい。それを言うならすでに辞任されているのではないですか」。これまでも指揮官は「競技に集中する」と言い続けているように、疑惑への関与は否定するとみられる。

 では、ファンは会見のどこに注目すればいいのか。「監督と協会側とが、本件についてどのような話し合いをしたのかが注目されます。その後、監督が言ったことと、協会が言ったことに温度差があるようであれば、監督と協会との間に意思疎通が成立していない可能性があります」と示唆した。

 ▼監督として適格か不適格か

 海外には告発を受理され、容疑者となってもプレーを続ける選手はいる。文化や風土が違うからだ。ただ、日本代表の監督として日の丸を背負い戦うことは考慮しなければならない。「八百長は、日本人からは受け入れられない。万が一、4年後に有罪となれば『○○年のあの試合も八百長だったのでは?』とささやかれることになりかねないので、その点が危惧されます」。守り切るには、どこかに痛みが発生する。それぞれの立場なのか、解任に伴う違約金なのか、「すべてを守り切ろうとするのは無理があります」。

 アジア杯で指揮を執るのは決まっている。告発が受理され起訴となったらどうするのか、そしてその先は、協会の判断が注目される。【構成=高橋悟史】