川崎FのFW大久保嘉人(33)が、鳥栖戦のロスタイムにJ1通算得点で159点目となる劇的な決勝弾を決め、FW佐藤寿人(広島)を抜き単独トップに立った。左太もも裏痛で満足に練習できない中、3月19日の第4節甲府戦以来のフル出場。途中で両足がつりながらも、最後のチャンスでネットを揺らし、1-0の勝利に貢献した。チームはリーグ唯一の不敗を守り、首位に再浮上した。

 やはりこの男だった。川崎Fのエース大久保が、等々力劇場の主役を演じた。後半46分。1度はネットを揺らすもオフサイドの判定で幻に。だれもが引き分けと思った矢先だった。ロスタイム4分を経過し、おそらく最後の攻撃。左サイドでMF田坂のパスを受けたFW小林が「絶対にファーに(大久保)嘉人さんがいる」と信じクロスを上げた。猛然とゴール前に駆け上がった大久保が、頭で押し込んだ。チームを首位に導く決勝弾。劇的な幕切れにホームは興奮に包まれた。

 大久保 最高の速いボールが(小林から)来た。顔でもいいからふかさないように当てた。オレも何で(ファーに)おったか分からん。

 エースの嗅覚でもぎ取った。甲府戦で痛めた太ももは軽症ではない。チームメートは「普通ならプレーできない。常人ではない」と証言する。それでもけがを押してピッチに立ち続けた。「無理にやって結果が出せなかったら批判を食らうけど、そう言わせたくない」がポリシー。2試合ぶりのフル出場で両足はつり、後半2本の決定機を外し「みんなに何て謝ろうかと思った」と心が折れかけた。それでも「最後に必ずチャンスが来る」と信じ、最後の最後で得点を奪った。

 足の不安は的確なポジショニングと好機に一瞬でゴールに入り込むスプリントでカバーした。鳥栖のU-23(23歳以下)日本代表MF鎌田も「消えている時間があっても最後の最後に点を入れる集中力がスゴイ」と脱帽するしかなかった。

 大久保は「地獄と天国が紙一重なところがFWの醍醐味(だいごみ)。今日は地獄からはい上がりました」と本音を漏らした。単独トップに立つJ1通算159点も「通過点」と受け流す。「もっと積み重ねていきたいし、まだやれると欲が出てくる」。貪欲に先を見据えている。【岩田千代巳】

 ▼J1通算最多得点 川崎FのFW大久保嘉人(33)が、10日の鳥栖戦(等々力)の後半ロスタイムに今季3点目を決めてJ1通算得点を歴代単独最多の159点に伸ばした。広島FW佐藤の158点を抜いた。後半ロスタイムのゴールも通算10点目でこちらも歴代単独最多だが、先発途中交代の多い佐藤の同時間帯のゴールは3点だけ。大久保の試合終了間際の勝負強さが際立っている。